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「でも、大丈夫です」1レース3回転倒の破天荒な16歳・古里太陽の期待値が、それでも爆上がりの理由とは?《日本人ライダーの注目株》
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2022/04/27 17:00
リザルトには反映されなかったものの、フリー〜予選〜決勝を通じて、随所で光る走りを見せていた古里。今後の成長が期待される
事前にプレイステーションでコースを覚えた
なにもかも「初」という言葉が最初につく太陽だが、第3戦アルゼンチンGP、第4戦アメリカズGP、そして第5戦ポルトガルGPと初めて経験したサーキットでは、事前にプレイステーションのゲームでコースを覚えてきたのだという。そして、FP1で光る走りを見せたポルトガルGPは、まるで走ったことがあるサーキットのように感じたのだと振り返った。
その効果もあったのだろう。1回目のフリー走行で6番手になってイチバン驚いたのは太陽自身であり、セッティングを変更して挑んだ2回目のフリー走行では、走り出しからフィーリングが良くて一気にペースを上げていく。しかし、3周目の4コーナーで転倒してしまう。1から3までが右コーナー、4コーナーが最初の左コーナーでタイヤが温まってなかったことがその理由であり、完全にルーキーならではの経験不足によるミスだった。その後、雨足が強くなったFP3の転倒は、タイムには反映されなかったが、転んだ前後のコンディションでは最速ラップを刻んでいた。
3回目の転倒だけは、「まだペースをあげていなかったのにいきなりハイサイドになった」と納得のいかない表情だった。それでも「失敗しても縮こまらずチャレンジしていく」のは若さの特権であり、1レースで3回も転倒する破天荒なルーキーに僕はますます期待することになった。
デビューから3戦。古里太陽はテレビにも映らず、どんなレースをやっているのかまったくわからない人も多いと思うが、一戦一戦、太陽はたくさんのことを吸収し学んでいる。そしてデビューから4戦目となる第6戦スペインGP(5月1日決勝)は、開幕前のテストで骨折したサーキットではあるが、唯一、経験したサーキットであり、これまでの苦労がきっと生きることになると思う。
「カタール、インドネシアはアジアタレントカップでどちらも全勝したサーキット。この二つのレースを走れなかったのは本当に残念だったけど、逆に、走ったことがないサーキットが続き、いい経験ができたと思う。グランプリは厳しいです。みんな速いです」
そして、彼はこうつけくわえた。
「でも、大丈夫です」
果たして、これからどんなレースを見せてくれるのだろうか。いずれにしても、太陽は大きな舞台で才能を伸ばせるライダーのひとりだと思うし、決勝レースでテレビに映し出される日はそう遠くないのではないかと思う。
確かに、1レースで3回の転倒は、結果だけを見れば何をやってるんだと言いたくもなるだろう。でも、その3回の転倒が彼を大きく成長させたことは間違いなく、そんな彼に僕はますます期待してしまうのだ。
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