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「でも、大丈夫です」1レース3回転倒の破天荒な16歳・古里太陽の期待値が、それでも爆上がりの理由とは?《日本人ライダーの注目株》 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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photograph bySatoshi Endo

posted2022/04/27 17:00

「でも、大丈夫です」1レース3回転倒の破天荒な16歳・古里太陽の期待値が、それでも爆上がりの理由とは?《日本人ライダーの注目株》<Number Web> photograph by Satoshi Endo

リザルトには反映されなかったものの、フリー〜予選〜決勝を通じて、随所で光る走りを見せていた古里。今後の成長が期待される

 というのも、1回目と2回目の転倒はすごくフィーリングが良くて、どんどん行けそうだったという状況での転倒だったからだ。さらに難易度の高いアルガルベでここまで果敢に攻めていけるルーキーはそうはいないし、太陽の強い気持ちを垣間見るような気分だった。

 ただ、まだまだ経験不足を感じるし、ブレーキングなど課題は多いが、これは経験を積んでいけばどんどんよくなるはず。アクセルを開けて加速していくセンスの良さは大物ぶりを感じさせるし、これからの成長が実に興味深いと思った。予選が終わり、太陽は悔しくて仕方ないという表情だったが、最下位30番手からどんなレースをしてくれるのかと、ある意味、楽しみで仕方がなかった。

グリッド上でこんなにはっきりと言葉を交わしたのは初めて

 そして翌日、スタート直前のグリッド上のことだった。太陽にカメラを向けると彼は笑みを浮かべてこう語った。

「1レースで3回転んだのも最後尾からスタートするのも、レースを始めてから初めて。もうこうなったら開き直るしかないですね」

「そうだね。楽しんでこいよ」

 顔を見て、目線があったときにライダーと無言の会話を交わすことはあるが、グリッド上でこんなにはっきりと言葉を交わしたのは初めてのことだった。

 そして迎えた決勝レースは2台が転倒し、3人を抜いての25位だった。レースウイークで初めてドライになった決勝日の10分間のウォームアップでわずか5ラップ。初めてのサーキットでウエットで3回転び、ドライで5周しかできず挑んだ決勝レースで苦戦するのは当然だが、本当に多くのことを学んだのではないかと思った。

 今年、グランプリ参戦が決まった太陽は、2月に始まったスペインテストからホンダ・チーム・アジアに合流した。しかし、ヘレスで行われたテストで転倒を喫し、右足距骨を骨折。手術をして全治8週間という診断を受けた。その結果、開幕戦カタールGP、第2戦インドネシアGPを欠場。グランプリデビュー戦は、怪我から6週間後の第3戦アルゼンチンGPとなった。

 そのアルゼンチンGPは、インドネシアGPからの機材を運搬するカーゴ便のトラブルで金曜日のフリー走行がキャンセルとなり、土日だけという異例の2日開催となった。走ったこともないサーキットで、しかもデビュー戦がわずか2日間という厳しい条件の中で17位。連戦となった第4戦アメリカズGPは荒れた路面に苦しむも16位と健闘し、ポイント獲得にあと一歩に迫った。しかも、アルゼンチンGP、アメリカズGPは右足が完全に回復しておらず、強めの痛み止めを呑んでの出場だった。

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古里太陽
ホンダ・チーム・アジア

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