「彼は、結構考えてしまうタイプなんですよ。先発で投げさせると、この辺で力を温存して、とか1試合を通して投げ切るプランニングをしている。ところがプロはレベルが違うのでそう上手くはいかないわけです。本人の中ではファウルを打たせるつもりの球を芯でとらえられたり……。そういうズレが、さらなる迷い、そして力みにもつながっていた。特に入団から数年は、本人も周囲も甲子園で先発完投するようなイメージを持っていたと思うんですが、プロでそのレベルに達するには変化球を上手く使えなければ無理。まずは1イニングを全力で抑えるという成功体験を重ねていって、何かきっかけを掴んでほしいと考えていました」

　事実、吉田は秋田・金足農業高時代、エースとして3年夏の秋田大会から甲子園準決勝まで10試合連続完投勝利を挙げた。4試合連続2桁奪三振という大会記録にも並んだが、剛腕エースの鮮烈なイメージは、プロの高い壁を乗り越える足枷にもなっていたわけだ。

2018年夏の甲子園、金農旋風を巻き起こした吉田輝星 ©BUNGEISHUNJU

「周りは150kmを超える剛速球、というイメージを持っているかもしれませんが、彼の良さは140km後半だけど伸びあがっていくような、バッターを押し込めるようなストレートなんです。入団当初は彼も、とにかく速いボールを、とそればかり追い求めていた。本人にはよく、それをするとバランスも崩れるしお前の良さが全部なくなるよ、という話をしていました。速いボールじゃない、強いボールを意識してほしい、と。だからどんなに球速が上がっても絶対に褒めませんでした。あいつには『いつか絶対に褒めさせてやる』って言われてましたけどね（笑）」

「変化球禁止の試合」で得た気づき

　吉田がこだわっていたストレートの“呪縛”を解くために、荒療治を施したこともある。二軍監督兼投手コーチをつとめていた吉田の2年目には、秋のみやざきフェニックス・リーグや練習試合などで何回か“真っ直ぐ縛り”の登板をさせた。

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