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「理屈の上ではノーチャンスだが…」トルシエが語った日本代表のカタールW杯グループリーグ突破法「初戦には常に大きな驚きがある」
posted2022/04/22 17:03
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Takuya Sugiyama
フィリップ・トルシエに日本のワールドカップでの可能性を尋ねたのは、ワールドカップ本大会の抽選がおこなわれた翌々日、4月3日のことだった。抽選の結果、日本が振り分けられたのは、いわゆる“死のグループ”ではなかった。日本にとっては死のグループかもしれないが、客観的に見ればドイツとスペインというサッカー大国のグループリーグ突破がほぼ確実の“鉄板グループ”であった。
では、日本代表は、グループリーグを突破し目標であるベスト8に到達するために、どんな決意を抱きどんな可能性を目指して大会に臨めばいいのか。彼らの前を遮ろうとするのは、ドイツ、スペイン、恐らくベルギーという世界屈指のサッカー大国である。また観客やサポーターは、どんな希望を抱いて日本代表の戦いを見守ればいいのか……。トルシエは冷静に現状を分析し、展望を語っている。
トルシエのロングインタビューを3回に分けて掲載する。まずはその第1回から。(全3回の1回目/#2、#3へ続く)
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――あなたはW杯の抽選結果をどう思いましたか。日本の入ったグループをどう見ますか?
「それについてはよく考えたが、サッカーはロジックでもある。日本のグループには過去の優勝国がふたつ入っている。つまり理屈のうえでは、日本にグループリーグ突破の可能性はない。客観的に見ればそうなる。
だが、サッカーの歴史――とりわけW杯の歴史を見れば、サッカーは決して理屈通りではないことがよくわかる。大きな番狂わせがしばしば起きており、どの大会でも具体例を挙げられるほどだ。日本のために私が挙げたいのは、2018年にドイツがグループリーグ最終戦で韓国に敗れた例だ。突破のために、ドイツは絶対に勝たねばならなかった。だが、すでに敗退が決まっており、失うものがなにもない韓国に負けて(アディショナルタイムに入ってからの2得点で韓国が2対0と勝利)グループリーグ最下位で敗退した。ディフェンディングチャンピオンであり、ほとんどすべての大会で好成績を残していたドイツが、セカンドラウンドに進めないのはW杯史上初のことだった(1938年フランス大会ではラウンド16=1回戦でスイスと引き分け再戦の末に敗れたが、それ以外に出場した大会ではいずれもベスト8以上に進んだ)。
18年W杯で韓国が成し遂げたこと
日本にとってはもの凄く難しいグループで、普通に考えれば日本にチャンスはまったくない。今のチーム状況をスペインやドイツと比べればノーチャンスだ。だが、日本は失うものが何もない。何のプレッシャーもなく、心理的に解放された状態で試合に臨める。誰もが大変なグループであるとわかっているし、ドイツが難敵であり、特に監督が(ヨアヒム・レーブからハンジ・フリックへ)替わってからそうであることをよくわかっている。新たな監督とともにドイツは再び情熱と自信を取り戻した。だから日本にとって状況は複雑だ。