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試合中の一時心停止から1年経たず… エリクセン「カムバックは完璧だ」代表とプレミアでゴール量産《サッカー界の意識を変えた名手》 

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三重野翔大

三重野翔大Shodai Mieno

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posted2022/04/18 11:00

試合中の一時心停止から1年経たず… エリクセン「カムバックは完璧だ」代表とプレミアでゴール量産《サッカー界の意識を変えた名手》<Number Web> photograph by Getty Images

心臓発作から一命をとりとめたエリクセン。フットボーラーとして復帰後、活躍を見せている

 3月26日、国際親善試合のオランダvsデンマーク。後半開始と同時に、デンマークの背番号10がピッチに姿を現すと、スタンドの観衆は立ち上がって拍手を送る。

 そのわずか2分後である。右サイド深い位置からの折り返しに右足で合わせ、ゴール左上にシュートを突き刺した。

 クリスティアン・エリクセン。

 昨夏に起きたアクシデントから、デンマーク代表のエースとして復活を遂げた瞬間だ。

 奇しくも会場は、彼がアカデミー時代から過ごしたアヤックスのホーム、ヨハン・クライフ・アレナだった。

「国際舞台へのカムバックは、完璧だ」

「何年も前から(アヤックスで)ここでプレーしていたからね、みんな僕のことは知っている。それでも、とても心温まる歓迎だったことは確かだよ」

「ボールが僕のところに来たのも嬉しかったし、もちろん素晴らしいフィニッシュだった。このような形での国際舞台へのカムバックは、完璧だ」

 その後行われたセルビア戦にも出場したエリクセンは、なんと2試合連続ゴール。そして代表ウィーク明けのチェルシー戦では、ブレントフォード加入後初ゴールも決めて、完全復活を印象付けている。

 EURO2020、初戦のフィンランド戦でエリクセンがピッチに倒れたとき、誰がこのような復活劇を予想できただろうか。

 ショッキングな光景を目の当たりにし、一時は心停止状態に陥ったと聞いた時には、ただ彼の無事を祈るだけだった。それでもキャプテンのシモン・ケアーをはじめとした選手、さらにはメディカルスタッフの迅速な対応もあり一命を取り留め、体へのダメージも最小限に抑えることができた。

 エリクセンは心臓の動きを常時監視し、致死性不整脈が感知されると治療を行う植込み型除細動器(ICD)を装着。プレーヤーとしての復帰に向けて12月からトレーニングを再開した。一方でイタリアではICDを着けてのプレーが認められておらず、所属のインテルとは契約を解除していた。

ブレントフォードでも得点に関与している

 本格復帰が近づいたのは今年1月。U-17デンマーク代表時代の恩師トーマス・フランクの直談判で、彼が率いるブレントフォードに加入した。

 翌月のニューカッスル戦で約8カ月ぶりの公式戦復帰を果たすと、3月上旬のバーンリー戦では加入後初アシスト。試合終盤に左足で鮮やかなクロスを供給し、劇的な先制点を演出した。

 そして復帰後初ゴールが、先述のオランダ戦である。途中出場からファーストタッチでネットを揺らすあたり、本人の言う通り「完璧」な代表復帰戦だった。

 エリクセンの復活劇は世界中のサッカーファンに希望を与えるとともに、人命への対応に関して、少しずつサッカー界を変えている。

【次ページ】 「フットボールが最も重要なことではない」

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