格闘技PRESSBACK NUMBER
新日NJC覇者ザック・セイバーJr.の試合はなぜ面白い?「ヴィーガンでリベラルで、反ボリス・ジョンソン」な異色キャラと“14歳の決意”
text by
原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2022/04/03 17:03
『NEW JAPAN CUP』で2度目の優勝を果たし、IWGP世界ヘビー級王者オカダ・カズチカへの挑戦権を手にしたザック・セイバーJr.
ザックにとってIWGPのベルトこそ「世界最高」の象徴
2年前、新型コロナウイルスのパンデミックと、各国が設けた入国制限や隔離期間の存在によって「世界を飛び回るレスラー」というスタイルそのものが現実的でなくなってしまった時、彼は日本に居続ける道を選んだ。今回の優勝後、その理由が明かされた。「日本の生活にもっと慣れ、日本人の考え方を理解すること。これが何よりも重要だと思った」からだった。何のために重要なのかというと、それはやはり「世界で最高のレスラー」になるために、だ。
2017年の参戦当初から「新日本はプロレスを体現している。40年前に、プロレスは最強だ、という姿勢を打ち出し、闘いという一番大事な原点に重きを置いている。IWGPのベルトが最高なのは、新日本が世界最高の団体だから」と言っている彼にとって、IWGP世界ヘビー級のベルトは、まさしく自身が世界で最高のレスラーという存在に到達した象徴となるものだ。だから異国に留まって戦い続けた。
彼が日本で戦い続ける姿を見ていた観客はいつの間にか、その目標が達成されることを願うようになった。強い意志を感じる、という見えない部分だけでなく、パッと見ただけで大きくなったとわかる体から並々ならぬ覚悟が見てとれる。4年間で徐々に変わったのではなく、この半年で一気に変わった。
4年前、「俺はプロレス界の常識を覆す男だ。ヴィーガンだし、すごくリベラル。ライトヘビー級で、サブミッションというものを全く新しい形で見せている」と自己紹介していた彼の体重は85kgだった。昨年10月のG1にも85kgでエントリーしていたのだが、11月の鷹木戦で90kgとなり、今回の決勝戦では95kgになった。打撃や体重を乗せる投げの威力は格段に増したが、当然、巧さやキレを犠牲にはしていない。飛びつき式スイングDDTから一気にセイバードライバー(旋回式ザック・ドライバー)を繰り出して内藤を沈めた流れにも、それらが全て詰まっていた。全ては世界最高の座に辿り着くためだ。
テクニカルレスリングに加えて豪快さまで備えてみせた今のザックには、やはり「巧い」よりも「強い」という称賛の方が似合っている。
昨年のファイナリストであり、共にIWGP世界ヘビー級のベルトも巻いたウィル・オスプレイと鷹木を破り、前挑戦者の内藤を倒しての優勝。あとはオカダを倒すだけだ。
いつ試合が終わっても、どう試合が終わっても、納得しかない。そんな観戦冥利に尽きる極上の時間がやってくる。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。