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なぜ那須川天心の父・弘幸が対戦相手のセコンドに?「いまは風音との絆の方が強い」「息子だろうと関係ない」“禁断の親子対決”の真相
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byKoji Fuse
posted2022/04/01 11:03
TEPPEN GYMの那須川弘幸会長が構えるミットにパンチを打ち込む風音。那須川天心のRISE卒業マッチは、異例の「同門&親子対決」となった
まるで『巨人の星』…弘幸会長が風音に肩入れするワケ
禁断の同門対決であるがゆえに、巷では「茶番ではないのか」と疑問視する向きもある。そういう声を耳にした弘幸会長は「それは全くない」と真っ向から否定する。
「本当に心の奥底から天心を倒してやろうと思っています」
那須川親子の断絶を目の当たりにして、筆者は劇画『巨人の星』で、主人公・星飛雄馬の女房役を長年務めていた伴宙太が、トレードをきっかけに飛雄馬の父・星一徹との特訓によって“消える魔球”大リーグボール2号を打とうと試みたドラマを思い出した。
いったい何が弘幸会長のモチベーションを掻き立てるのか。ひとつには風音の共感力の強さが挙げられるのではないか。3年前、京都からTEPPEN GYMに来たときには練習道具を少し持ってきただけで、ほとんど裸一貫の状態だった。資金もなかったので、食事すら満足にとれない時期もあったという。
しかし風音は弱音を吐くことなく、弘幸会長に鍛え上げられ、関西を拠点に活動していた頃と比べると見違えるような選手に成長した。2019年3月の移籍第1戦から8勝1敗というレコードがそれを如実に物語っている。
風音の魅力について聞くと、弘幸会長は「風音は“コイツを応援したい”と思わせる何かを持っている」と吐露した。
「アイツには親のスネをかじってとか、誰かを頼ったり甘えるというのは一切ない。その一方でまわりに対する感謝の気持ちが強い。アイツが幼少の頃に苦労していることはなんとなく聞いている。僕も昔はそうやって生きてきたので、ものすごく共感できる」
前述したDOAトーナメントの準決勝に臨む前の練習で、風音の肋骨は2カ所も折れていたという。風音は手負いの状態で政所仁との準決勝を闘い勝利を収めた。同日開催の決勝を迎える時点で、風音の体はボロボロだったのだ。弘幸会長はこう証言する。
「政所選手と闘ったことで拳を痛めたのに加え、カーフキックを受けたことで足も痛めた。そういうコンディションの中、風音は痛さを微塵も見せず志朗選手との決勝を闘っていた」
肋骨が折れていたことを風音はジムメイトに明かすことはなかった。
「仲間うちにも弱みは見せない。アイツはそういう男ですよ」(弘幸会長)
トーナメントに向けての調整をしているとき、肋骨の状態が心配になった弘幸会長は「大丈夫か?」と声をかけた。風音は即座に「いや、関係ないです」と答えた。