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なぜ那須川天心の父・弘幸が対戦相手のセコンドに?「いまは風音との絆の方が強い」「息子だろうと関係ない」“禁断の親子対決”の真相
posted2022/04/01 11:03
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Koji Fuse
「俺はアイツの想いに心が揺れちゃったんですよ」
声の主はTEPPEN GYMの那須川弘幸会長だ。アイツとは4月2日、RISEラストマッチで那須川会長の長男・那須川天心と闘う風音を指す。続いて弘幸会長は、こちらの胸に突き刺さる台詞を呟いた。
「いまの絆は天心より風音との方が強い気がします」
いつもは息子のチーフセコンドを務める弘幸会長も、今回は風音の方に就く。いったいなぜこの禁断の同門対決は実現するに至ったのか。ことの発端は昨年9月、風音が国内の王者やトップランカーを集めた53kgの『DEAD OR ALIVEトーナメント』で優勝したことだった。
試合後、マイクを握った風音は「天心とやらせてください」とアピールした。まさかの優勝を果たした直後だけに、場内は大きくどよめく。風音が控室に戻ると、天心は「100年早いよ。お前ならジャブだけで勝てる」と笑顔で言い放った。
天心の「余裕」が父・弘幸会長に火をつけた
この時点で天心は大晦日のRIZINと、まだ日程が発表されていなかったRISEのラストマッチでキックボクサーを卒業する予定だった。今年6月開催予定の武尊戦はまだ発表されていない。だからこそ、天心と風音の対決はすれ違いになると思われた。RISEでの最後を飾るにふさわしい相手として、天心や弘幸会長は「ロッタンとやりたい」と声を揃えていた。
ロッタン・ジットムアンノンは過去、天心を最も苦しめたムエタイファイターとして知られているが、闘うプロモーションが別であることに加え、階級を上げてしまったので実現は困難と見なされていた。さらに新型コロナウイルス対策として入国制限が敷かれ、4月上旬に外国人選手を招聘できるかどうかは誰もわからない状況だった。
ロッタン戦が難しいことがわかると、弘幸会長は天心に「たぶんまだ外国人は呼べない」と水を向けた。
「日本人だったら誰とやる?」
天心は答えた。
「もし誰もいなかったら、風音は俺に挑戦するに値するよ」
同じ質問をRISEの伊藤隆代表に振ると、「風音がいいんじゃないか」と同調した。
「志朗にも勝っている風音には、天心と闘う権利が十分にある」
弘幸会長は天心に確認した。
「同門だけど、いいの?」
天心は、にべもなく答えた。
「いや、全然(余裕で)勝てるよ」
その一言に弘幸会長はムカッときた。彼にとっては天心同様、風音も自分のことを父親のように慕ってくれるかわいい選手だったからだ。弘幸会長は息子を突き放した。
「そんなに余裕があるならやってみろよ」