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「さすがにムリ…」→「まだ間に合うかも!」寺田夏生がいま振り返る箱根駅伝“コースアウトの瞬間”「オレだったら間違えねえ」先輩の愛あるイジリも 

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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photograph byAsami Enomoto

posted2022/03/31 17:01

「さすがにムリ…」→「まだ間に合うかも!」寺田夏生がいま振り返る箱根駅伝“コースアウトの瞬間”「オレだったら間違えねえ」先輩の愛あるイジリも<Number Web> photograph by Asami Enomoto

2011年の第87回箱根駅伝、10区を走った國學院大1年生の寺田夏生はコースを間違えながらも10位でゴール。同大学初のシード権獲得に貢献した

コースアウトの瞬間「さすがにムリ」→「間に合うかも」

 勝負所はラスト200mを切ってから訪れた。4人で形成された8位集団の中からいち早く青学大の小林駿祐が仕掛けると、それにかぶせるように寺田もスパートをかけた。日体大の谷永雄一、城西大の甲岡昌吾もそれに続き、残り3チームに与えられるシード権を目指して4人が塊のようになって直線道路を駆けた。ラスト120mほどとなったところに、見えない落とし穴が潜んでいた。

「前田さんに『曲がったらすぐゴールだぞ』と言われていたので、最初は橋をくぐって曲がったからあとはそのまま一直線だと。でも、前を走る中継車が右にそれたので、ここを曲がってゴールかと勘違いしちゃって……」

 突如、コースを外れた寺田を見て、沿道から悲鳴が上がる。「ゴールはあっちだ」の声に気づき、寺田は慌ててコースに戻った。ロスはおよそ30mほど。すでに順位は4人の中で最下位にまで落ちていたが、頭の中は冷静だったという。

「最初はさすがにムリだと思って諦めたんですよ。でも、コースに戻ってみたら意外とゴールまではまだ距離があって、間に合うかもしれないって。そこからまた全力で走りました」

 かろうじて前を行く選手に追いつき、かわしたときにはもう余力は一滴も残っていなかった。城西大の選手に3秒差をつけ10位でゴールした瞬間のことは、今でもよく覚えているという。

「あの集団のなかで1位になればシード権は確実だと思っていたんですけど、ゴールしたときはもう自分が何番かはわからなくて、そうしたらキャプテンや4年生の先輩たちが喜んで駆け寄ってきてくれたので、『やった!』と。もみくちゃになったときに初めてシードが取れたことに気づきました」

 マイクが拾っていた「間違えた、アブねえ」の寺田の声、カメラがとらえた前田康弘監督の男泣き、このシーンが後にテレビ番組『もうひとつの箱根駅伝』で放送されたため、寺田は一躍時の人となった。劇的な幕切れは大きな反響を呼び、大学史上初のシード権獲得ということもあって校内の盛り上がりもすごかった。

【次ページ】 山登りや「花の2区」を任されるも、胸に残る後悔とは?

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