「ストレート一本で抑えるのが理想です。でも、それは究極の目標。実は達成できるものではないとも思っています。だから試合では、勝ちにこだわるピッチングをする」

　追うべき理想と試合で勝つ投球は別物。藤浪の言葉には、そんな潔さがあった。

　一方の大谷が藤浪との対決に敗れたのは、故障のために長く試合に登板していなかったことがひとつの要因だろう。しかし、それが彼の成長を後押ししたというのも、また事実である。

　故障を抱えていた大谷は、練習の制限を余儀なくされた。食事の量は変わらないのに、練習量だけが減った。さらに睡眠時間を意識的に増やしたことで、大谷の身体は大きく、太くなっていった。

　大谷が言う。

「あまり好きじゃなかった食べることもしっかりできたし、充実した期間でした。一時は90kgまで体重が増えたこともあったくらいで、身体が出来上がっていく実感があった」

藤浪と大谷、2人が目指した姿

　最後の夏、大谷は県大会の決勝で敗れ、甲子園の舞台に立つことはできなかった。だが準決勝の6回、追いかけ続けてきた160kmの真っ直ぐを初めて投げることができた。

　佐々木は言う。

「怪我をして試合経験を積めなかった分、勝てる投手にはなれなかったかもしれません。でも、その分、身体が大きくなりました。あの怪我がなければ、160kmは出せなかった」

　3年間を振り返り、大谷は胸を張る。

「日本一になることと、160kmを投げることを目標にやってきました。一方が達成できないまま終わった悔しさはありますが、160kmを投げたことには達成感がある。怪我をしても、諦めることなくトレーニングをやってきて良かった」

　等身大の目標を一つひとつクリアし、“勝てる投手”の道を究めたのが藤浪だった。遥か彼方に目標を置き、そこをひたすらに目指してきたのが大谷だった。

大谷「世界レベルで活躍する選手になりたい」

　ドラフトを前にして、2人には多くの視線が注がれている。「プロ志望届」を出すだけで、トップニュースだ。

　大谷は屈託なく語る。投手への想い、そして、彼らしい壮大な夢について。

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