青木　要するに、日常を切り取ったものってことでしょ。僕の考えではファイターもレスラーも同じです。スポーツではなく“芸事”なので。

スー　エッセイストなんてまさにそう。この10年で、青木さんは文章力も抜群に伸びましたよね。この間までTwitterの肩書が「文筆家」になってたし（笑）。

青木　格闘技で表現するのか、言葉で表現するのかの違いで、本質的には変わらないですよね。でも僕、試合をするのがいまだにイヤで……。

「『ウキウキする』なんて言うやつがいるけど…」

――よく仰っていますね（笑）。一般的な格闘家の勇ましい発言とは真逆です。

青木　みんな「怖くない」とか「楽しい」とか言うんですよ。そんなの嘘に決まってるじゃん。

スー　でも楽しいのは楽しいんじゃないの？

青木　本当にイヤです。いまも「試合したくねえな」とずっと考えていて……。試合前の花道に出るときに「ウキウキする」なんて言うやつがいますけど、「お前どんな嘘つきだよ」って思います。

スー　たしかに10年以上前のブログでも同じことを書いてたね。

青木　でもまあ、時間が解決するんですよ。なにせその日がきたら試合をしなきゃいけないので、渋々ですけど「行くか……」みたいな感じです。

「好きな選手がまだ現役…これ以上の贅沢はない」

――知り合って約10年、『ひとまず上出来』だったおふたりですが、これからの10年はそれぞれどう変化していくと思いますか？

青木　どうだろう……。試合で自分を表現するという形は、年齢的に考えてなにかしら変わってくると思いますよ。新たな表現はもしかしたら文章かもしれないし、もしかしたらカレーや食パンかもしれない。プロレスラーになっているかもしれない。いずれにしても、自分が好きなことをやっているとは思います。表現方法は変わっても、僕自身はあまり変わっていないような気がしますね。

スー　私も変わらないと思います。やってきたことが正しいとまではおこがましいから言わないけど、自分の信じてきたものを続けてきてよかったなと思うから。青木さんと私もまったく一緒ではなくて、相反するところや意見が違うところもたくさんあるんですけど、お互いの矜持はわかるんです。私は書くことや喋ることへの譲れない意地があって、彼もたぶん表現することにかけては同じなんだな、と。

青木　スーちゃん、これからの10年で心配なのは健康ですよ。僕たちはもう健康に気をつけなきゃいけない歳になってきているんですよ。

スー　そりゃそうでしょう。今日、会ったときに私を見るなり「スーちゃん、膝が内転してて骨盤がちょっと歪んでるから、横からバーンって蹴られたら膝が壊れるよ」って真顔で言われて。生まれて初めて青木さんに「バカじゃないの」って言いました。格闘家以外は急に横からバーンなんてやられないから（笑）。

　なんにしても『ひとまず上出来』というか、私は万々歳なのよ。格闘技を好きになって、干支がひと回りしてもまだ好きな選手が現役で見られるなんて、これ以上の贅沢はありませんからね。

（写真＝末永裕樹）

#1から読む

「私たちはさ、消費されることにものすごく敏感だよね」ジェーン・スーと青木真也はなぜ“ロイホの3時間”を大事にするのか？