スー　青木さんのコンプレックスだったものってなんですか？

青木　やっぱり柔道が弱かったんですよね。それに、ずっと自分のやり方を否定され続けてきた。

スー　投げじゃなくて、絞め技とか関節技を極めるスタイルのことね。

――いわゆる講道館柔道のスタイルではない……。

青木　ルール上で勝とうが認められなかった。「俺は正当にやってきたのに、正当な評価をされなかったんだ」という自負がずっとあります。

スー　私もそうかもしれないですね。いまは多様性がだいぶ認められる世の中になってきていますけど、さっきの女性の話にしても、私が20代や30代だったころに正統派と言われた「女の幸せ」を選べないコンプレックスというのがあったと思います。

「ここ握られたらダメだな」という感覚を間違えない

青木　それでも僕は、柔道から格闘技の世界に入ったときも「俺は絶対に面白いんだ」とずっと思っていました。柔道でも同級生にすごい子はたくさんいたんですけど、「こいつらは絶対にどこかで諦めるだろうな」と考えていた。コツコツやり続ければ、最後に勝つのは俺だと。格闘技にしても同じで、みんな才能あるし、運動能力も僕より高い。それでも「こいつらがやめるまで待つんだ」という戦略がありましたから。

スー　結果的にそうなっていますよね。青木さんの生存戦略は見習いたいところがあります。私もこういう仕事を始めて、本を何冊か出させてもらうようになってから、自分ではない人の期待にすべて応えていくと潰されるな、と（笑）。知り合って10年くらい経ちますけど、お互いに消えることもなく、『ひとまず上出来』ですよね。

青木　『ひとまず上出来』ってすごく便利でいい言葉だよね。さすがですよ。

スー　いえいえ。ONEに行ったことにしてもそうですし、青木さんはファンや関係者の言うことを聞かないでぜんぶ自分で選ぶけど、判断を間違えないですよね。やっぱりそこも含めて勝負師。人の期待の裏を読む能力に長けている。

青木　こいつ危ねえな、ここ握られたらダメだな、ってわかるんです。ただ、握られちゃダメだけど、一切関わらないでは試合も組めないし商売にならないので、ある程度は預けなきゃいけない。その塩梅が難しくて。

スー　この「期待に応えすぎたら潰される」「握られたらまずい」という感覚がどうやったら伝わるか。私たちがやってこれたのは、そこの判断を見誤らずに済んだからというだけな気もしますね。

格闘技で表現するのか、言葉で表現するのか

――おふたりのような仕事をされながら息長く活躍するためには、そういったバランス感覚が必要不可欠だと。

スー　青木さんと私は世の中の人からすれば全然違う職業でしょうけど、本質的には同じで、「毎日をどう生きてきたか」「自分にどこまで向き合って正直でいられるか」というのがもろに出る仕事なんだと思います。

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