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オリンピックPRESSBACK NUMBER
平野歩夢の快挙を伝えた“詳しすぎる実況” TBS新夕悦男アナを変えた先輩の教え「何でファイティングポーズを取っていないんだ」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuki Suenaga
posted2022/03/18 11:03
バレーボールや野球、駅伝など多くのスポーツを実況してきたTBS新夕悦男アナウンサー(47歳)。今のスタイルを築く上での“転機”を赤裸々に語った
「一昔前の戦術を用いるチームの監督に、なぜその方法を選択するのかと尋ねたら『うちには大エースがいるのだから、その選手を活かす策を取る。そこに古いも新しいもあるか』と言い返されたことがありました。どれだけ尋ねても話してくれない監督を練習会場で待ち伏せし、練習が終わったタイミングで缶コーヒーを持って近寄ると『まぁ、座れや』と話してくれたこともありました(笑)。そうやって聞いたリアルな声、考えをいかに実況に還元するか。僕のやり方がベストかどうかはわかりませんが、好きなようにやらせてもらってきました」
そんな新夕も、もちろん最初からすべてを器用にこなせたわけではない。
入社は1998年。最初にスポーツの実況に携わったのは、ラジオのプロ野球中継だった。だが、ルールはわかっても細かな球種まではわからない。スポーツ実況の研修、練習を兼ねて大学野球の現場へ足を運び、放送席の前で試合を見る控え選手たちに教えを請うた。
「今の球種は何?」
「スライダーです」
「なるほど、これがスライダーか」
実際に目で見て覚え、そして多くの試合や選手を映像で見たことで、今ではさらりと「同じスライダーでも選手によって軌道が違う」と言えるようになった。
苦労したのは野球だけではない。今でも忘れられない苦い経験と明かすのが、入社後3年を迎えた頃の出来事だ。
「何でファイティングポーズを取っていないんだ」
新夕は東日本実業団女子駅伝で中継所の実況要員の1人として加わっていたが、ある日、先輩アナウンサーから突如言われた。
「移動車の中継、できるか?」
「移動車の準備は全くしていません。これからやります」
その答えが、逆鱗に触れた。
「何で常にファイティングポーズを取っていないんだ。そんな状態のヤツに任せられるわけがないだろう」
新夕は移動車の担当から外された。年齢や経験を重ね、当時の先輩がなぜそう言葉を発したか、今は想像することもできる。
「中継所の実況が楽しい。それでもいいけれど、もっと先を見据えていつ何時でも対応できるように準備をしなさい、と言いたかったのだろうなと思います。長いスパンで見ていないやつが付け焼き刃で、できるわけがないだろうと。それ以来、一度でも担当した競技は自分が担当する、しないにかかわらず長いスパンで見続けようと思うようになったし、今もそう思っています」