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オリンピックPRESSBACK NUMBER
平野歩夢の快挙を伝えた“詳しすぎる実況” TBS新夕悦男アナを変えた先輩の教え「何でファイティングポーズを取っていないんだ」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuki Suenaga
posted2022/03/18 11:03
バレーボールや野球、駅伝など多くのスポーツを実況してきたTBS新夕悦男アナウンサー(47歳)。今のスタイルを築く上での“転機”を赤裸々に語った
先人たちから学んだのは、準備の大切さだけではない。
さかのぼること14年。新夕が初めて五輪の実況を担当したのも同じ北京で行われた2008年の夏季五輪だった。当時、担当したのはラジオ中継。局の垣根を超え、NHKや民放各局のアナウンサー、ディレクターと共に、サッカー・野球・バレーボールなど複数の競技を担当した。
その時に見た“涙”が、新夕が思い描いてきたアナウンサー像を変えた。
「柔道中継の時、僕は(他社の)先輩アナウンサーの隣でディレクター業務をしていました。そうしたら突然、その先輩が中継中に言葉を詰まらせ、泣いていたんです。聞けば、その選手を何年もの長い時間をかけ、取材して追い続けてきた、と。それまで頭のどこかにスポーツ実況をするアナウンサーはこうでなければならないという理想が僕の中にあり、まさにその方が理想像に近かったのですが、思いを堪えきれず涙を流していた。これほど選手と寄り添って、実況者として共に戦えるって素晴らしいことだな、と。僕もこんなふうに人間らしくありたい、と思いました」
「観る人の頭の中に言葉で絵を描きたい」
アナウンサーを志望して間もなく、「観る人の頭の中に言葉で絵を描きたい」とスポーツ実況を志望した。念願かなって数多くのスポーツ実況を担当し、夏冬の五輪を経験。「15歳の夢」を叶えた平野歩夢の金メダルの瞬間も伝えた新夕は、自身のこれからをどう描いているのだろう。
「若い頃は描いた理想がありました。今はその理想から一番遠いところにいる気がするし、手が届きそうかな、と思ってもやればやるだけ遠くなっていく。理想が大きくなりすぎているからかもしれませんが、手が届かないからこそあがけるし、もがけるし、それが楽しい。簡単にできないことにチャレンジし続けられる。できるならばこれからも、スポーツの実況はやり続けたいですね」
言葉という筆を使って、観る人の頭に絵を描く。ラジオで初めて五輪を伝えた2008年から14年の時を経て、北京の真っ白な雪山に描いた絵――。
「僕は全然、何もできていません。絵を描くのではなく、恥しかかいていませんから(笑)」
これからも新たな「人類史上最高難度」を伝えるべく、ファイティングポーズを取り続ける。いつかまた出会う、その瞬間のために。
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