- #1
- #2
オリンピックPRESSBACK NUMBER
「人類史上最高難度!」のあとにまさかの低得点…実況アナが語る平野歩夢“金メダルの瞬間”、決勝3本目ドロップインで蘇った「15歳の夢」
posted2022/03/18 11:02
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Yuki Suenaga
2月20日に閉幕した北京五輪。3月13日にはパラリンピックも終わり、冬から春に季節が差し掛かるように、雪と氷の中で繰り広げられた名勝負の記憶も少しずつ薄れつつある。
そう、書いておきながらやはり思い返す。あの場面は熱かった、と。そして名実況が蘇る。
「人類史上最高難度のルーティンが今、完成しました」
2月11日、スノーボード男子ハーフパイプで金メダルを獲得した平野歩夢が決勝2本目を滑り終えた直後だった。満を持して、でも、用意周到だったわけでもない。最初のトリプルコーク1440から最後のフロントサイドダブルコーク1440まで、すべての大技をパーフェクトに決めた平野を見て、ごく自然に言葉が沸いてきた。実況を務めたTBSアナウンサー、新夕悦男はそう言う。
「いろいろな方から『用意していたんでしょ?』と言われましたが、本当にたまたま、咄嗟に出てきました。言葉を用意するということは想像の範疇であって、スポーツはその想像を超えるから素晴らしい。だから失礼だなと思って用意することはありませんでした。
もっといいこと言えたんじゃないか、と僕自身は思いますし、実際に3本目を終えた後も“人類史上最高難度の~”と同じ言葉を使ってしまったので、むしろボキャブラリーがないなぁ、と反省しかありません。名言ではなく迷言ですよ(笑)」
「結果」よりも「ワクワクしていた」
昨年12月、平野は国際大会「ウィンターデューツアー」で4回転の中に縦3回転が含まれる超大技『トリプルコーク1440』を世界で初めて成功させた。わずか5カ月前の東京五輪にはスケートボード日本代表として出場。夏から冬へ、限られた準備期間の中で「異常なぐらい練習した」という平野が本番でどんな大技を見せるのか――紛れもなく、平野は“金メダル大本命”だった。
そんな間もなく訪れるだろう歴史的瞬間に向け、伝え手の心境とはいかなるものか。舞い上がってもおかしくない状況下で、新夕は意外なほどに「冷静だった」と振り返る。
「金メダルを獲ってほしいと結果を期待していたわけではありません。むしろ、僕自身も『どう伝えるか』という前に、平野選手はもちろん、すべての選手がどんなランを見せてくれるだろう、どんなことをしてくるだろうとワクワクしていました」
伝え手として気負うのではなく、楽しむ。その背景にはスノーボードという競技の特性が大きい。