オリンピックPRESSBACK NUMBER

「人類史上最高難度!」のあとにまさかの低得点…実況アナが語る平野歩夢“金メダルの瞬間”、決勝3本目ドロップインで蘇った「15歳の夢」 

text by

田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

PROFILE

photograph byYuki Suenaga

posted2022/03/18 11:02

「人類史上最高難度!」のあとにまさかの低得点…実況アナが語る平野歩夢“金メダルの瞬間”、決勝3本目ドロップインで蘇った「15歳の夢」<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

北京五輪スノーボード男子ハーフパイプの実況を担当したTBS新夕悦男アナウンサー(47歳)。日常の業務に戻った今、改めて“あの熱狂”を振り返った

「スノーボードやスケートボードの選手たちは、ライバルでありながら仲間意識も強い。お互いリスペクトし合い、アイツはどんな技を出してくるのか、じゃあ自分はどの技をするか、と競い合っています。実際(12月に)平野選手がトリプルコーク1440を初めて決めた時も、他の選手たちが彼の演技を見て“あんなことをやるヤツがいるのか”と驚いているんです。その時はキャブダブルコーク1440につなげようとして転倒してしまったのですが、“最後まで通してくれよ!”と仲間たちが願っているのも伝わってきた。

 そういうシーンをずっと見ていたので、自然とその世界に入っていくことができたのかもしれない。より近い位置から、その熱量や駆け引きを伝えられるように、解説の渡辺(伸一)さんと共に、すごいものはすごい、カッコいいものはカッコいいと正直に言葉にすることを大事にしていました」

 実況者が選手の繰り出す技を伝え、技の高さや精度がいかに優れているかは解説者が伝える。「競技経験のない自分に技のすごさは語れない」と謙遜するものの、滞りなくスラスラと技の名を伝える新夕の実況は、スノーボード関係者からも高評価を得た。

担当が決まったのはわずか1カ月前

 東京五輪の延期に伴う異例の事態で、新夕が北京五輪の実況を担当することが決まったのは東京五輪の後。スノーボードを担当すると決定したのは大会のわずか1カ月前だった。技の名前を暗記するだけで精一杯、という状況のはずだが、新夕には下地があった。

 平野が初出場した2014年ソチ五輪でもスノーボードハーフパイプの実況を担当し、大会以降も自身が担当しない試合の記録や映像を隈なくチェックしてきた。絶対王者ショーン・ホワイトと平野の関係、そして次々出てくる若い選手たちを含めた全体を1つのストーリーとして見続けた成果がここで生かされた。「朝から見始めて、気づいたら夜になっていたこともある」と言うように、試合映像を見続けるのは苦になるどころかむしろ楽しみだったと笑う。

「(選手たちは)競技会の前にこの技をします、と発表するわけではないので、技を暗記しても追いつかない。ここでこの捻りが入ると何回転になるとか、縦回転が入ればこうなるということを映像として頭の中にどれだけ残せるか。そのうえで、こういうところを見ていきましょう、という進行役が自分の仕事だと思っていました」

 飽きるほど見た映像の中で、平野が繰り出した技のすべてを成功させた選手はいない。それを理解していたからこそ、平野が見せた2本目の後に、咄嗟に口をついて出た。

 人類史上最高難度のルーティンが完成した、と。

 世界初、史上最高難度のルーティンがそのまま言葉になった。だが、直後に出された得点を見た時はさすがに驚いたと苦笑いを浮かべる。

【次ページ】 「素直な感情を言えば……」

BACK 1 2 3 NEXT
#新夕悦男
#平野歩夢
#ショーン・ホワイト

冬季スポーツの前後の記事

ページトップ