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古賀紗理那“雄叫びスパイク”から読み解くリアルな現在地「今は代表のことは頭にない」のに「もっとバレーがうまくなりたい」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/02/25 17:03
東京五輪の敗戦から半年、笑顔を交えながら心境の変化を語った古賀紗理那(NECレッドロケッツ)。チームの勝利のために味方へ要求することが増えた
昨夏の東京五輪で負った右足関節捻挫の治療とリハビリに時間を割いた古賀は、リーグ開幕が近づいても、ゲーム形式の練習では主力組ではなくBチームに入ることが多かった。対戦相手を想定し、自分がしたいプレーではなく相手の得意とするプレーに寄せた。実戦練習の中で気づいたことは、その都度チームメイトに指摘する。
古賀からすれば「勝つために当たり前」の作業だが、周囲の受け取り方は少々違う。NECのルーキー川上雛菜(ひな/23歳)は、開幕直前にもかかわらず、矢印を自分ではなくチームに向ける古賀に驚いたと言う。
「紗理那さんは相手がどうするか、そこに対してどう守って、攻撃するかというのを自分がやって見せるし、指摘するんです。チームが勝つために何が必要で、どういうことをしなければいけないのか。ただすごい選手、というだけじゃなくて、ここまで考えて実践するすごい選手なんだ、と思い知らされました」
古賀が向ける矢印の矛先は、ルーキーだろうと、ベテランだろうと、日本代表選手だろうと変わらない。チームが勝つために必要と思えば、言いにくいことも躊躇せず繰り返し伝え続ける。そして、そこにも当然、理由がある。
「人って、自分が『変わらなきゃ』と自覚しない限り変わらないじゃないですか。そこを突っつきたいし、アプローチをかけたい。人をその気にさせたいんです」
ミドルブロッカー山田二千華への期待
チームが勝つためには全員の力が必要であるのは言うまでもない。だが、その中でも中心として活躍が期待される選手もいる。古賀が現在のNECで「間違いなく中心になるべき存在」と期待を寄せるのが、ミドルブロッカーで東京五輪にも出場した山田二千華(にちか/22歳)だ。
184cmと恵まれた体躯で、古賀が「集中した時の二千華のブロックは脅威でしかない」と話すブロック力は国内でもずば抜けている。攻撃面でもセッターの前から、ライトに切り込んでの速攻とバリエーションも幅広く、日本期待のミドルブロッカーであることは間違いない。
だが、ラリーが続いた場面では攻守切り替えが遅れることもあり、そうなれば相手はブロックの的を山田から外す。必然的に古賀をはじめとするサイドアタッカーへのマークが手厚くなり、ブロック失点が増える。それが勝負所で勝敗を分ける大きなポイントにもなりかねない。古賀が指摘するのはまさにそこ。練習でも同様の場面があればすかさず声をかける。
「今の(助走に入る)スピードどうだった?」
「いや、いつも通りだったと思います」
そこに生じるわずかな違いに、どう気づかせるか。古賀は「言う」のではなく「聞く」ことを重視する。
「セッターがセットする時に、二千華はまだ助走をスタートしていなかったよね? そのタイミングだと私は遅いと思うけど、いつもと比べてどう? ちょっと違うよね?」
山田だってそう聞かれれば考え、答えざるを得ない。古賀が目指す“気づき”のポイントはそこだ。