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マルケス「どん底から抜け出せるんじゃないか」開幕直前MotoGPテストの慎重な走りに見えた王座奪還の可能性 

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遠藤智

遠藤智Satoshi Endo

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photograph bySatoshi Endo

posted2022/02/20 11:00

マルケス「どん底から抜け出せるんじゃないか」開幕直前MotoGPテストの慎重な走りに見えた王座奪還の可能性<Number Web> photograph by Satoshi Endo

テストでは慎重な走りに徹したように見えたマルケスだが、最終日のロングランのアベレージタイムは参加ライダー中トップだった

 しかし、常に限界を超えていくことで転倒し、その転倒で自分の走りを制御していくマルケスが、今回のように手探りの状態のまま公式テストを終えたのは初めてだった。やはり、右腕上腕を骨折した20年の怪我と昨年終盤の視力障害が大きな要因になっているのだろうと思った。

 2月17日に29歳になったマルク・マルケスは、怪我をすればレースに出場できなくなる辛さと、怪我の回復に時間がかかる年齢になったことを実感しているのだろう。20歳でMotoGPクラスにデビューし、デビューシーズンの13年に史上最年少記録を次々に塗り替え、その後、快進撃を続けていたころとはなにもかも違う。デビューから7年で6回目のチャンピオンを獲得した19年シーズンをピークとすれば、20年、21年はライダー人生で一番辛い時期を経験した。

絶対王者が迎えるターニングポイント

 ライダーは成長を遂げているときは怪我をしないものだが、その成長が止まり始めたときの限界を超えた走りは大きな怪我を招く。それはハード面の限界だけではなく、ライダー自身の限界を超えていくことになるからだ。そして、ライダーは怪我を経験していくことで、それが選手生命に関わる怪我であればなおさら、大きな変化を受け入れねばならない。そういう意味でマルケスの今年の5日間のテストは実に興味深いものであり、実際に、誕生日直前のマレーシアテストが終わった後に、彼はこうコメントしている。

「厳しい時期を過ごした後は、それを取り返したくなるものだ。でも、そういう欲望に負けてはいけない。その欲望をどうコントロールしていくかを知らなければならない。アスリートとして、ライダーとして、28歳の自分は、スポーツの二つの側面を経験した。勝利、笑顔、祝福、すべてが美しいという最高の部分と、怪我をして家にいてテレビでレースを観戦する、これからどうなるかわからない不安との戦い。こうした最悪の状況は精神的にとても難しかったが、そうしたことを経験したことで、いまはどん底から抜け出せるんじゃないか、22年がターニングポイントとなるんじゃないか、このスポーツの美しい側面を再び見られるんじゃないかと思っている」

【次ページ】 テスト最終日に見えた光明

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マルク・マルケス
レプソル・ホンダ

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