「自分がこれまで作ってきたチームはTGVのようでした。でも、よく考えてみると、自分は新幹線のようなチームを作りたかったんだよなって思ったんです。自分が強引に引っ張って嫌々ついてくる、周りに迷惑をかけて走り続けるようなチームではなく、新幹線のようにスイスイ流れるようなチームに憧れてきた。この視点は、監督をやっている時はなかなか持てなかったですね。そういうチームを作りたいと、改めて思いました」

　自分自身がどうサッカーに向き合ってきたのか。競技内外の出会いや知識に触れながら考え続けた。そして、2020年の秋、曺のもとに京都から監督就任のオファーが届く。生まれ故郷のチームで、再出発ができることに運命を感じた。「自分が変わったことを証明するために、僕も選手も楽しいと思えるチームを作る」と、覚悟を決めたという。

「サッカーも所詮サッカーでしかない」

　湘南を去ってから1年2カ月、この時間は曺にとって、どんな時間だったのだろうか。

「この1年2カ月という時間がなければ、指導者として、一人の人間として自分を顧みることはできなかったと思います。監督というのは社会の一部であって、監督として見ている世界が全てではない。もっと言うと、サッカーも所詮サッカーでしかない。上手くいかなくても死ぬことはないんですよね。だとしたら、もっと僕自身もサッカーを楽しむこと、そして選手にももっとサッカーを楽しいと思ってもらうことがとても大事だし、周りにいる人をもっと大切にしないといけない。色んなことに気づいた時間でした。ほんと人生は、何歳になっても学びですね」

ⒸKYOTO.P.S.

　1年2カ月の時間を経て、新しい「サンガスタイル」を生み出すべく、曺は再出発のチャンスを得た。この期間での学びは曺の立ち振る舞いに明確な変化をもたらした。

「京都では人に頼るし、みんなが上下関係なくチームのためにやれていると感じています。結局、監督というか人間は実力以上のものは出せない。実力がないものをあるように見せても仕方ないんですよ」

　監督に復帰して1年後、京都サンガF.C.はJ1昇格を決め、多くのサポーターやファンに「京都が変わった」と言われた。そして、それは「曺貴裁が変わった」という証明でもあった。

<#2へ続く>

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