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高梨沙羅を失格にした審判員「彼女たちのことは何年も前から知っている」…日本人元五輪審判員は疑問「なぜ五輪で5名も違反になる?」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byGetty Images
posted2022/02/10 11:05
五輪初種目としても注目されたスキージャンプ混合団体。しかし、「スーツ規定違反」を理由に4カ国5人の女子選手が失格処分を受ける異常事態となった
事後ではなく、股下検査と同じようにスタートの待機小屋に上がったところですべてのチェックをすればいいという意見もあるだろう。ただし、それでは時間的に間に合わず、実際にスタートするまでになんらかの細工を施すリスクも排除しきれないという。だからこそ、事後の抜き打ち検査が行われてきた。
西森は言った。
「許容範囲は決められているので、今回それを超えてしまったのは間違いないのでしょう。ただ、ノルウェーの選手が『普段と測り方が違っていた。手を水平でなく、頭の上に乗せて計測した』と言っているという報道も見ました。もしそうであれば、やはりなぜ五輪で、とは思います。今季のW杯のどこかでみんなに示しをつけておけばよかったのに」
女子の個人戦ではスーツ違反、板の長さ違反による失格者はそれぞれ1人ずつだった。それに比べると団体戦での5人のスーツ違反はやはり異常に映る。エクイップメント責任者のフィンランド人男性の”過剰介入”が指摘されるなど、試合が終わってもなお自体は混迷の度合いを深めている。「スキャンダル」とまで言われている今回の事態を経て、FISは近いうちになんらかの手を打っていく必要があるだろう。
「今回のことはこれからも波紋を呼ぶでしょうね。失格になった他の選手もそうですけど、沙羅も責任を感じてしまって辞めるとか言い出したら、かわいそうでならないですよ」
高梨が繰り返した謝罪「皆んなの人生を変えてしまった」
西森がそう危惧してから数時間後、高梨はインスタを更新した。そこでは現在の心境を示すような真っ黒な画像とともに謝罪の言葉が繰り返されていた。
「私の失格のせいで皆んなの人生を変えてしまったことは変わりようのない事実です。謝ってもメダルは返ってくることはなく責任が取れるとも思っておりませんが今後の私の競技に関しては考える必要があります」
今回の大会前にインタビューしたとき、彼女はこう語っていたはずだ。
「人に何かを与えられるものがある限り、私は飛び続けたい」
失格の連発によって日本がまさかの2回目進出を果たしたとき、精神状態を危惧する周囲に対して高梨は自ら飛ぶことを願い出たという。
千切れた心をかき集めて、飛ぶ瞬間だけはカッと目を見開いて涙を止め、磨き上げたジャンプで見事に98.5mを飛んだ。同情も、憐憫も、そして称賛であっても今の彼女には慰めにはならないことを分かった上で思うのは、その強さには人の心を打つものがあった、多くの人の感情を揺さぶる力があった、ということだ。
痛切な投稿の最後に自らの名前を記した後、高梨はこんな思いを付け加えた。
「私が言える立場ではない事は重々承知の上で言わせていただけるなら、どうかスキージャンプとゆう素晴らしい競技が混乱ではなく選手やチーム同士が純粋に喜び合える場であってほしいと心から願います」
高梨もまたその喜び合える場に立っていていい。それに値する選手であると誰もが知っている。
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