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高梨沙羅を失格にした審判員「彼女たちのことは何年も前から知っている」…日本人元五輪審判員は疑問「なぜ五輪で5名も違反になる?」
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byGetty Images
posted2022/02/10 11:05
五輪初種目としても注目されたスキージャンプ混合団体。しかし、「スーツ規定違反」を理由に4カ国5人の女子選手が失格処分を受ける異常事態となった
腕周りは壁に背中をつけて立った上で手を水平に伸ばし、脇の下から手首の小指側にあるぽこっと出た骨までの長さを測定。あらかじめ登録していた数値より長くなっていないかを確認する。
ジャンプを飛ぶ前にチェックするのは股下になる。リフトを上がった後にスタートの待機場所付近で測り、申請してある数値よりも長ければ問題なし。もし短ければスーツをずり下げて浮力を得ようとしている可能性があるため、修正が求められる。
高梨が足りなかったのは太もも周りの2cmだったという。
日本代表の横川朝治ヘッドコーチは「寒さが厳しくて十分に筋肉がパンプアップできなかった」と語り、鷲沢徹コーチは体重減少の可能性を指摘していた。どちらもあり得る事態だと小川は言う。
「実寸を測るときは、力を入れている状態と入れてない状態では筋肉の盛り上がり方が違うから当然サイズが変わってきます。それがうまくいかなかったのかもしれません」
スキージャンプでは身長と体重によって使用できる板の長さまでも厳密に決められている。
「だから体重もみんなギリギリで調整しているんです。リフトに乗る直前に水を飲んで体重を合わせて上がっていくこともある。筋肉量が減れば実寸も減りますから。そういったところまで当日のボディチェックを(自分達で)するというのは、ルールがある以上やらなきゃいけないことですけど、完璧に把握することは実際には難しい。一方で人間が測るので、スーツを斜めに測ってしまえば1cmぐらい長く測れてしまうこともありえると思いますよ」
いくら厳しくても…5人も失格の“異常事態”はどう見る?
ただし、この日の試合は、高梨だけでなく個人戦銀メダルのカタリナ・アルトハウス(ドイツ)ら次々と失格者が出る異常事態となった。この日失格となった4カ国5人の選手はいずれも女子選手。高梨がそうだったが、おそらく他の選手も個人戦で使用したスーツ、もしくは同型のものを着用していたはずだ。
今回、女子の検査はポーランドのアグニエシュカ・バチコフスカが担当した(男子と担当が分かれているのは、脱衣して計測する必要があるため)。バチコフスカは試合翌日、母国の大手スポーツウェブメディア『SPORT.PL』のウカシュ・ヤヒミアック記者のインタビューに答えている。
ヤヒミアック「おはようございます! Mrs.アグニエシュカ “ジレット”」
バチコフスカ「それって私のあだ名?(笑)」
ジレットは、あのカミソリメーカーのこと。切れ味鋭い裁定は母国メディアからも“深剃り“すぎると感じられたのだろう。五輪初採用だった混合団体の興を削いだことは否めないからだ。
インタビューの中でバチコフスカは、大量失格の理由はあくまでルールを厳正に適用した結果だと説明した。