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4カ国5名が“犠牲”に…高梨沙羅が泣き崩れた超異例“スーツ規定違反”乱発の「なぜ」と再考されるべき手順《ドイツ監督も激怒》
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2022/02/08 11:03
7日のスキージャンプ混合団体、2本目を飛び終えて涙を流す高梨沙羅
横川ヘッドコーチは言う。
「世界中がぎりぎりを狙っているのは事実ですし。そうしないと勝てない世界になってきています」
一方で、ドイツのシュテファン・ホルンガッハー監督は「操られた舞台のようです」と批判したという。
佐藤幸椰「今日だけ、神様を嫌いになりました」
これは後出しのようでもあるが、チェックの手順についても、ルールで定められているとはいえ瑕疵はなかったか。
選手が飛ぶ前、スーツのチェックは一度なされている。そこで違反の有無を確認している。今回の高梨もそうだ。
さらに飛んだあと、ランダムに選手を選び、再度チェックする。この段階で高梨は失格とされた。事前にチェックして問題なければそれでよしとしてはいけないのか――今大会が浮き彫りにした、今後の課題でもある。何よりも、選手を犠牲にすることのないよう、手順も含め、再考されるべきではないだろうか。
しかし、そんな苦さの残る試合は、ただネガティブな印象のみを残したわけではなかった。
1回目、失格となったことから明らかにショックの色をうかがわせた高梨は、2回目にK点を超えるジャンプを飛んでみせた。飛び終えたあとの表情、うずくまった姿には、約50分前の1回目の衝撃がどれだけ大きく残っていたかを思わせた。
それでも、あのジャンプを飛んだ。その精神力と、自身に責任はなくても背負い込んだ重責を果たそうとする気力は、高梨のアスリートとしての、人としての底力そのものであった。
佐藤、伊藤、小林も懸命なジャンプを見せた。
佐藤は試合後、こう語った。
「沙羅ちゃんを責めないでほしいです。今日だけ、神様を嫌いになりました」
小林は高梨、チームの皆に触れた。
「本当にみんなすごいですね。2本目、沙羅もすごくいいジャンプをしていましたし。本当に強いなと思いました」
心からの実感のこもった、敬意あふれる言葉だった。
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