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福士加代子39歳が引退…笑顔の裏で“嫌いなことだらけのマラソン”を続けた理由「陸上をやめようかなと思っていたんです。でも…」
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph byAFLO
posted2022/02/02 11:03
満面の笑みでゴールへ飛び込んでいく福士加代子。1月30日、“引退レース”となった大阪国際マラソンに出場した
「モスクワでメダルを獲得できたので、陸上をやめようかなと思っていたんです。でも3~4カ月ゆっくりしていたら、もうちょっとやってもいいかな、と。イチかバチか、金メダルを狙ってみよう、と思うようになったんです。競技生活を振り返ると、ターニングポイントはたくさんありすぎる。この年齢までやれていることが奇跡ですよ。でも、若い頃よりも、今の方が楽しめているのかな」
リオ五輪は日本女子マラソン選手として史上最年長となる34歳4カ月で本番を迎えた。メダルや入賞には届かなかったが、福士は日本人トップの14位でゴールした。2017年に結婚するも、競技生活は続いた。
2019年9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)は7位。翌年の大阪国際と名古屋ウィメンズは途中棄権に終わり、東京五輪へのチャレンジは終わった。しかし、福士の“魂”は後輩たちに引き継がれていく。
東京五輪には一山麻緒が女子マラソン代表、安藤友香が同10000m代表となり、ワコール勢は5大会連続の五輪出場を果たした。福士の背中を追いかけてきた24歳の一山は女子マラソンの日本人として17年ぶりとなる8位入賞に輝いている。
陸上界に残したものは計り知れない
長距離ランナーは“孤独な生き物”だ。いつも笑顔の福士といえども例外ではない。取材時はいつも明るく、答えたくない質問にはギャグでかわすようなこともあったように思う。そのなかでも永山忠幸監督と世界大会のメダルを本気で狙い、気が付けば、日本の女子トップ選手では前例がないほど長く競技を続けたことになる。
近年はケニアで練習する男子選手が増えているが、福士は2007年にエチオピアでの合宿に挑戦するなど様々なチャレンジを続けてきた。おそらく失敗も少なくなかったが、すべての経験がチームの“財産”になった。さらに福士が後輩たちに送ったアドバイスは何よりも大きな“パワー”になったことだろう。
4度のオリンピックと5度の世界選手権に出場したレジェンドが陸上界に残したものは計り知れない。3月25日で40歳を迎える福士。今後はワコールに残ってランニングイベントなどに参加する予定だというが、これからも“福士スマイル”で陸上界を盛り上げていただきたい。