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福士加代子39歳が引退…笑顔の裏で“嫌いなことだらけのマラソン”を続けた理由「陸上をやめようかなと思っていたんです。でも…」
posted2022/02/02 11:03
text by
酒井政人Masato Sakai
photograph by
AFLO
福士加代子(ワコール)の“引退レース”は、大阪国際女子マラソンと同時開催の大阪ハーフマラソンだった。市民ランナーたちとなにわの街を駆け抜けると、1時間16分04秒の30位でフィニッシュ。途中、何度も脚が止まりそうになったというが、長居陸上競技場(現・ヤンマースタジアム長居)のゴールに笑顔で飛び込んだ。先に到着した男子選手たちが拍手で迎える。照れ笑いを浮かべた福士は、レース直後のインタビューでこう答えた。
「ほんと、良かったです。最初と最後をここで終われて。始まりと終わりがここみたいな感じで。まあおもしろかったですね。ファンの皆さん、最高です。こんな状況ですけど、私の走りで少しでも希望を持ってくれたらいいなと思います。応援ありがとうございます!」
笑顔の裏にあった苦悩「ちっこい胸ですけど、痛んでました」
福士の初マラソンは2008年の大阪国際女子マラソン。25歳のときだった。40km走は一度も行わず、実質的なマラソン練習は1カ月半で臨み、悪夢を味わった。前半は快調だったが、終盤にペースダウン。長居陸上競技場のトラックに入ってから3回も転倒した。2時間40分54秒で19位。それでも最後は笑顔でゴールしている。39歳でラストレースを迎えた福士は、引退セレモニーの後にこう語った。
「ワコールに入社して22年間走ってきました。いろんな国に行って国内でもたくさんの選手たちと走りました。その度に自分とよく会話をしました。毎日、やれるんじゃないかという希望と、もしかしたら走れなくなるのではという不安もあった。ちっこい胸ですけど、痛んでました」
トラック、駅伝、マラソンで数々の栄光をつかんできた福士。常に笑顔を見せてきたが、その裏にはいくつもの苦悩があった。
「あまり先のことを考えないようにしているんです」
過去の取材ノートを引っ張りだしてみると、2006年2月の香川丸亀ハーフマラソンで1時間7分26秒の日本新・アジア新(当時)をマークした後、京都のワコール本社で福士を取材していた。そのとき、こんなことを言っていたのが強く印象に残っている。
「あまり先のことを考えないようにしているんです。せめて1週間。先のことを考えたくないというよりも、その日のことで一杯いっぱいなので先が見えないんです」
1週間の積み重ねが、実業団選手として22年間もの活動につながった。