- #1
- #2
Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
《誰もが知る名言》長州力「キレちゃいないよ」はこうして生まれた…スーパースターが激突した“プロレス全面対抗戦”とは何だったのか?
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byAFLO
posted2022/02/06 06:02
新日本とUインターの全面対抗戦、2勝2敗で迎えた第5試合で長州力が安生洋二にサソリ固め
安生を解放した“リキラリアット”
「長州さんは体にオイルを塗ってて、ヌルヌルだったんだよ。あれはやりづらいよ。まあ、体をきれいに見せるために、いつもオイル塗ってテカテカなのかもしれないけど、俺はあんなヌルヌルの人とはやったことがなかった。本当につかめないからね。『何これ?』って思ったよ」
当時、新日本ではホーク・ウォリアーが持ち込んだ、肉体をきれいに見せるオイルを使用している選手が何人かいた。長州も日常的にオイルを使用していたのか、それとも安生が仕掛けてくることを警戒してのことだったのか、それはわからない。しかし、この対抗戦には警戒すべき緊張感があったことだけはたしかだ。
安生は10・9長州戦をこう振り返る。
「それまで俺はいろんなものを背負い込んできたけど、それがリキラリアットで吹っ飛んだ感じかな。だから俺にとって、あのリキラリアットが禊であり、プロレス界復帰への扉だったんですよ」
この長州戦を境に開き直った安生は、トンチの効いたコメントを連発し、ファンの笑いを誘うヒール“ミスター200%”としてブレイクを果たすのだ。
長州vs.安生で最初のピークを迎えた対抗戦は、第6試合で佐々木健介が垣原賢人にまさかの敗北。第7試合は橋本真也が中野龍雄に三角絞めで完勝。メインを前に、戦績は新日本の4勝3敗。この時点で、Uインターに数字の上での勝ちはなくなった。
天下分け目の「武藤敬司vs.高田延彦」
しかし、真の決着はメインイベントの大将同士の一騎打ち、武藤敬司vs.高田延彦へと暗黙のうちに託されていた。
この天下分け目の一戦を前に、武藤敬司はいつもと違うプレッシャーを感じていた。
「俺はデビューこそ新日本だけど、1年くらいですぐ海外修行に出て、周期的にテリトリーを変えていたから、気分的にはアウトローなんですよ。だから当時も新日本所属とはいっても、あんまりそういう意識はなかった。でも、あの高田戦に関しては、必然的に新日本の看板というものを背負わされることになったからさ。やっぱりプレッシャーはありましたよ。俺、責任感とか、あんま得意じゃねえもん(笑)」
そして迎えた武藤vs.高田のIWGPヘビー級タイトル戦。まず先に挑戦者・高田が入場。その表情はややナーバスだ。Uインターの絶対的なエースである高田が、外敵としてリングに向かうのは、インター旗揚げ以来初めてのこと。新日本ファンもそんな高田に敬意を表してか、これまでのUインター勢へのブーイング一辺倒と異なり、大きな歓声が送られる。