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《誰もが知る名言》長州力「キレちゃいないよ」はこうして生まれた…スーパースターが激突した“プロレス全面対抗戦”とは何だったのか?
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byAFLO
posted2022/02/06 06:02
新日本とUインターの全面対抗戦、2勝2敗で迎えた第5試合で長州力が安生洋二にサソリ固め
猪木の苦言に反論した武藤の“真意”
続いてロングガウンをまとって入場した武藤は、ドームの入場ステージのど真ん中で両手を広げ、大見得を切ってみせた。その威風堂々とした姿に、ファンはあらためて武藤の類まれなスター性を再確認したはずだ。入場時点でのオーラは、明らかに武藤が高田を上回っていた。
しかし、この武藤の入場にアントニオ猪木が苦言を呈した。これから決闘の地に赴く男の振る舞いではない、ということだ。
「猪木さんが俺の入場に文句言ってるってのは、あとから聞いたよ。でも、猪木さんの感性に合わせていたら、いつまで経っても猪木さんを超えることはできない。自分のやり方で飛び越えていくしかないんだよ」
現在、新日本の多くのスター選手がドームのステージで大見得を切ってから入場する。武藤がこの日を境に、新日本の流儀すら変えていったのだ。
「それに、あの日の興行全体は、ある意味で猪木イズムなんだよ。猪木さん時代の新日本っていうのは、前座はガチガチの試合をして、メインに向けてどんどん大会をビルドしていき、最後は猪木さんが華やかに締める。その猪木さんの役割を、俺がやったっていうことなんだよな」
勝負を分けた武藤のドラゴンスクリュー
そして武藤vs.高田の試合も、序盤は昭和のストロングスタイルを思わせる、オーソドックスなグラウンドの攻防が展開された。対抗戦の殺伐感というより、互いの技量を確かめ合うような展開。そんな中でもヒリヒリとした緊張感が途切れなかったのは、高田がいつ仕掛けてくるかわからないという警戒心があったからだろう。
「Uインターでは、北尾(光司)が高田さんのハイキックでKOされているからね。やっぱり、そういうのも考えたよ。だけど俺は、昔の前田(日明)さんがいた頃のUWFと新日本(業務提携時代)の、殺伐とした緊張感を経験しているからね。だから、高田さんとのああいう試合は、俺じゃなきゃできなかったんじゃないかな。たぶん、25年経った今でも見られる、高度なプロレスをしていると思うよ」
高田のやや優勢で進んだ試合が動いたのは13分すぎ。高田のキックをキャッチした武藤がドラゴンスクリュー! U系にはない技で虚を突かれた高田は、これでヒザを負傷。この好機を武藤は逃さず、執拗にヒザを攻め立て、最後はリングの中央で足4の字固めをガッチリと極めた。ついに高田がギブアップ! 凄まじいばかりの大歓声の中、対抗戦は新日本の圧勝で終わり、Uインターの命運もここで事実上ついえた。