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昨年戦力外→今はガソリンスタンドで…元ホークス山田大樹が“フリーター生活”の理由「お客様から『ナゴヤドーム観に行ってました』って」
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKotaro Tajiri
posted2021/12/28 06:00
山田大樹さん33歳。「元祖・育成の星」。そんな異名をとった左腕投手は今――
市内の駅まで迎えに来てくれた山田さん。街の人波の中でも、やはりひと際目立って映る。現役時より少し細身になったせいか、より高身長に見えてしまう。
山田さんの運転する車に乗り込み、一緒にとある場所へ向かうことになった。
ところで、まず聞かなければならないのは“フリーター”暮らしをしている理由だ。
「実は自分が志望していた専門学校の願書提出が12月いっぱいで締め切られていて。僕、引退を決めたのが今年1月だったじゃないですか。それで間に合わなかったんです」
調べるとまだ願書の間に合う専門学校はあったが、見送ることにした。
「自分の行きたい学校は鍼灸師に加えて、指圧とあん摩の免許も目指すことができるんです。間に合った学校は鍼灸師のみ。僕はそれでも……と思ったんですが、妻から『自分のやりたいことを目指すならば、たった数日の決断で焦って決めることはないんじゃないの』と言われて、考えを改めました」
元ソフトバンク・馬原孝浩さんにも相談。「やるべきだよ」
妻が背中を押してくれたのは2度目だった。引退した当初はサラリーマン生活も考えたが、「向いてないよ」と言われて「そうだな(笑)」とあっさり納得した。そこで思い立ったのが資格を取得したうえでトレーナーや野球の指導者になることだった。
先駆者の先輩にも相談をした。ソフトバンク、オリックスで通算182セーブを挙げた馬原孝浩さんだ。引退後に3年かけて専門学校に通って鍼灸師と柔道整復師の免許を取得し、現在はプロ野球選手のトレーナー、若手トレーナーの育成、そしてプロ野球独立リーグ「ヤマエ久野 九州アジアリーグ」の火の国サラマンダーズの監督という三足のわらじで活躍をしている。
「電話で相談したら、『やるべきだよ』と即答されました」
ただ、1年間の浪人生活をダラダラと過ごすわけにもいかない。初めは将来への勉強も兼ねてマッサージ店でアルバイトすることを考えたが、2~3カ月の講習期間は無給のため「さすがに家族を養うのには厳しい」と断念。知り合いのツテもあり、現在のガソリンスタンドでの仕事が決まった。
「最初の頃はテンパってばかり(笑)。接客業をした経験もなかったから、どんな顔をしてお客様をお迎えすればいいのか分からないくらいでした」
山田さんと名古屋の“不思議な縁”
名古屋という土地柄ソフトバンクやヤクルトのファンが多くないためか、山田さんの存在に気付く人はまずいないという。
「マスクをしていますし、車の中からだと身長も分かりづらい(笑)。でも、僕が日本シリーズで投げて勝ったのがナゴヤドーム。不思議な縁があります。そういえば一度、お客様に自分の話をしたら、そこで気づいてもらって『あの時の⁉ 僕、観に行ってました』と言ってもらえたことがありました」