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「もっともっとできたのに」わずか“0.17の差”だった鈴木明子vs中野友加里…2009年全日本フィギュア「名勝負」を振り返る
posted2021/12/23 11:05
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
「いちばん、緊張する大会です」
同じ言葉を何回耳にしただろう。
フィギュアスケートの全日本選手権は、スケーターにとって、特別な舞台だ。そこに立つことがスケーターとしての目標であり、上位で戦う選手にとっては世界大会の代表選考の場でもある。ましてや五輪シーズンはオリンピック代表選考がかかる。
他のシーズン以上の重圧と緊張を強いられる中で懸命に力を尽くそうとする。だから名勝負や忘れがたい光景が展開されてきた。
バンクーバー五輪出場の選考大会である2009年の全日本選手権女子もその1つだ。
残り2枠…浅田真央vs中野友加里vs鈴木明子の行方
女子3枠のうち、代表選考規定にのっとり、安藤美姫がすでに内定。残り2枠が全日本選手権の行方にかかっていた。
有力候補と目されていたのは浅田真央、中野友加里、鈴木明子。3人は初めてのオリンピックを目指していた。
ショートプログラムは浅田が69.12点でトップに立ち、2位に68.90点の中野、3位に68.68点の安藤、4位に67.84点の鈴木が続いた。
いずれも僅差で迎えたフリー。3人の中で最初の滑走者であった中野は126.83点、合計195.73点。その後、浅田に抜かれたものの中野が暫定2位のまま、鈴木の順となった。
鈴木は前半のトリプルループ後の滑り出しで転倒する。だがそれに動揺することなく持ち直すと、128.06点、合計195.90点で2位に飛び込む。
全選手が滑り終え、順位が決まる。優勝は浅田。2位に鈴木、3位に中野、この3人が表彰台に上がった。
わずか「0.17点」が分けた明暗
試合が終わり、代表選考会義が行なわれた。安藤、浅田に次いで代表の3人目として選ばれたのは、鈴木だった。
日本スケート連盟の伊東秀仁フィギュア委員長は両者の選考について、こう説明した。
「中野の実績、左肩の故障も考慮しましたが、今シーズンと、全日本選手権の成績を踏まえました」