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「東京五輪後は1カ月間、自宅で引きこもりでした」陸上・新谷仁美33歳が語る“現役引退まで”「3年後のパリで最後と考えています」
posted2021/12/25 11:00
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph by
AFLO
カーボンプレート入りの厚底シューズが登場して以降、ランニングシューズの話題は年々加熱している。そんななか新谷仁美(33歳)がアディダスとパートナーシップに合意したことを発表した。
新谷が「競技の復帰を決断した時に手を差し伸べてくださり、再びこの世界へ戻るきっかけをくれたのがNIKEでした」と12月9日にツイートしたように、2018年にNIKE TOKYO TCの所属で現役復帰。その縁で出会った横田真人は、今でも彼女のコーチを務めている。その新谷がアディダスを選んだのだ。その真意を本人に聞いた。
「なぜシューズを観客席に投げ込んだのか」
長距離走において、走る感覚が変わるのが怖いと、シューズを変えたがらない選手は多い。だが「走ることは仕事」と話す新谷にとっては、履きこなすことも仕事のうちだという。
「だって結果が出なければ、シューズのせいだと言ってるようなものじゃないですか。そういう考え方はしたくないし、シューズが変わったから走れなかったとは言えないですよね。結果が出なかったらそれは誰の責任でもなく、自分の責任。契約をする以上、私がスポーツメーカーに合わせるべきだし、履きこなすことが私の役目です。だからシューズに執着はしていないし、これまで合わないと思ったシューズもないですね」
2021年6月に行われた日本選手権、5000mに出場し、2位でゴールした新谷は、そのまま履いていた白のシューズを脱いで両靴を靴紐で結び合わせると、観客席へと投げ込んだ。
続く7月に行われたホクレン・ディスタンスチャレンジ。会場に現れた新谷の手にはこれまでとはメーカーの違う2足のシューズが握られていた。
「日本選手権は決別を表明していたとか、いろいろな憶測も飛び交いましたが(笑)、ちょうど履き潰したので、捨てるよりも喜んでもらえるならプレゼントしたほうがいいなと単純に思っただけです。私、タイトルは欲しいけど、モノはいらないタイプで。靴だけじゃなくて、メダルもトロフィーも興味がないので、すぐ人にあげちゃうんです」
18年ぶりに1万mの日本記録を更新した昨年12月の日本選手権のメダルも、すでに手元にはないという。「唯一残っているのは、純金製の東京マラソンの金メダルだけですね(笑)」。
東京五輪後は1カ月間、引きこもっていた
そんな新谷がホクレンで手にしていたシューズのひとつがアディダスだった。だが、当時はいくつかのシューズを履き比べているところで、アディダスは候補のひとつでしかなかった。