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「東京五輪後は1カ月間、自宅で引きこもりでした」陸上・新谷仁美33歳が語る“現役引退まで”「3年後のパリで最後と考えています」 

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林田順子

林田順子Junko Hayashida

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posted2021/12/25 11:00

「東京五輪後は1カ月間、自宅で引きこもりでした」陸上・新谷仁美33歳が語る“現役引退まで”「3年後のパリで最後と考えています」<Number Web> photograph by AFLO

11月末のクイーンズ駅伝。新しいシューズで力走した新谷仁美。髪の毛はブルーに染められていた

 きっかけは東京オリンピックだった。早くから1万mの代表に決定していた新谷は、開催の是非についてのコメントを求められることも少なくなかった。「こんな状況で出ていいのか」。そんな思いと怪我を抱えた新谷は、満足に練習を積めない日が続いた。五輪には出場をしたが、結果はトップと周回遅れの21位。レース後のインタビューで新谷は泣きながら、謝罪の言葉を口にした。

 五輪後、新谷はレースから姿を消し、ツイートも止まった。気持ちが落ち込み、ジョグも、筋トレも一切せず、1カ月もの間、自宅に引きこもっていた。

「私は自分が商品だと思って走ってきた人間ですから、五輪が終わって、商品としての価値はないと切り捨てられて当然だと思っていました。気持ちも落ちるところまで落ちていましたし、アピールするチャンスも気力もなくしていました。だけど『新谷仁美という1人の人間としてサポートしていきたい』とその時も寄り添ってくれたのがアディダスでした。私をサポートしたら、損をするのではないかと思ってしまう気持ちもありました。それでもサポートを約束してくれる、ビジネスだけじゃない気持ちを感じたことで、この人たちのために頑張ろうと決意しました」

33歳という年齢「私に残されているのはあと数年」

 損をするかもしれない――新谷がそう思うのには33歳という年齢がある。若手の台頭が目覚ましい近年の女子長距離界にあって、自分はどこまで戦い続けることができるのか、自分に残された時間を新谷は考えている。

「若い選手なら仮に失敗しても、この先いくらでもリベンジできるという心の余裕があります。でも私に残されているのはあと数年。そんな私に賭けてくれたのだから、私はこの賭けを絶対に勝たせなきゃいけない。それが私の役割だと思っています。一方で、もし失敗したとしても支えてくれるという安心感は、私に余裕や時間を与えてくれるし、落ち着いて競技に打ち込めるようになっていると思います」

 期待に応えたい。その思いが新谷の気持ちを再びレースへ向けた。11月28日、新谷はクイーンズ駅伝に帰ってきた。足元は鮮やかなブルーの「アディゼロ タクミ セン8」。

【次ページ】 「パリ五輪を最後にしようと考えています」

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