「これまで自分に合わないと思ったシューズはなかったけれど、レーシングシューズとして自分に一番合っているシューズだと思っています」

　その根拠はポイント練習にあった。東京五輪後、1ヶ月間引きこもっていた新谷の体はウエイトがオーバーしているだけでなく、以前のように走ることができない状態だった。そこでジョグからスタートし、少しずつポイント練習を挟んでいった。

11月のクイーンズ駅伝。アディダスの新しいシューズをはき、5区で力走。積水化学は創部25年目で初優勝を飾った　©AFLO

「昨年12月の日本選手権で、1万mの日本記録を出そうと練習を積んでいたとき以来、実はポイント練習を外さず継続することができなくなっていました。ところが走りが戻っていない私でも、ポイント練習を外さなくなった。グリップが良くて、蹴り出している感覚があるので、トラックのカーブでも失速せずに走り抜けることができる。そして私にとっては失敗しないシューズという安心感もあります」

「パリ五輪を最後にしようと考えています」

　新しいシューズを手にしての、久々のロードレース。新谷は東京五輪後のブランクを感じさせない、区間2位の走りを見せ、積水化学の初優勝に貢献した。

「だけど区間賞も取れなかったし、散々だと思うような結果しか今年は出していないので、焦る気持ちになることもあります。久々にレースに出て、前向きな気持ちになれたかというと、正直まだそこまでの気持ちにもなれていません」

　前向きにはなれていないけれど、「気持ちを切り替えることはできた」。次の目標はまだ内緒だというが、キャリアの先は見据えている。

「パリ五輪を最後にしようと考えています。もし、私にまだ商品価値があって、例えば積水化学が駅伝だけでも出て欲しいなどがあれば、現役続行もあるかもしれません。でも、自分が決めたゴールは3年後のパリ五輪です」

　私たちが新谷の走りを楽しめるのもあと3年ということになる。

「う～ん、逃亡癖があるので、どうなるかは分からないですよ（笑）。だけどアディダスと一緒に逃げずに、頑張って戦っていきたいと思います」