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香川やレバンドフスキを見出したSDも驚いた…4部で下積み予定だった伊藤洋輝にキレやすいシュツットガルトファンが拍手を送る理由
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/12/13 11:00
シュツットガルトで評価を高める伊藤洋輝。スタメンに定着し、攻守両面でチームに欠かせない存在となりつつある
特に、意図の見えないプレーに我慢できないように思う。
ボールを落ち着ける時間帯が必要なことくらい分かっている。そのために丁寧なビルドアップが大事だということも。だからといって、後ろでいつまでもパスを回しているのは面白くもなんともない――といった感じだ。
「そんなんでどうやってゴールを奪うんだ!」
「もっと勇敢なサッカーを見せてくれよ!」
厳しい声がいつも聞こえてくるし、ビールの入ったコップが飛んでくることもある。
そんな熱いファンが、伊藤のプレーに拍手を送っているのだ。
彼から放たれる正確で鋭いパスは、攻撃の起点として欠かせないものになりつつある。首脳陣の思いも同じようで、ミスリンタートは伊藤がリーグデビューを遂げた8月28日のフライブルク戦後に、次のような言葉を残している。
「ヒロキは素晴らしい左足を持っている。ビルドアップに優れ、1対1の競り合いに鋭く行ける。理性的にタックルができるし、ピッチ上で上手く自身の感情をコントロールすることもできる」
指揮官も伊藤の総合力の高さを評価
ペルグリノ・マテラッツォ監督からの信頼も、日を重ねるごとに深まっているようだ。「ヒロキは自身の仕事を非常によくやっている。極めて安定感がある。こちらの話に耳をしっかりと傾けるし、学ぶのが速い」と、その成長ぶりに目を細めている。
攻撃面だけではない。第8節のボルシアMG戦では圧倒的なフィジカルを誇るスイス代表FWブレール・エンボロと対峙したが、マテラッツォ監督から「非常にいいプレーだった。絶好調のブレールを封じる簡単ではない役割だったが。うまくコントロールしてくれた。ブレールが振り向いたシーンはほとんどなかったよ」と褒められていた。
CBにも、いろいろなタイプがいる。
対人に強くても、あっさり引きずり出されて、ゴール前のスペースを与えてしまったら大ピンチになる。逆にスペースケア能力は高いが、相手との距離を瞬時につめられない選手は怖くない。トップレベルのCBとして評価されるためには、人に強いだけでも、スペースをケアできるだけでも、足下の技術に長けているだけでもダメなのだ。試合中のあらゆる状況に応じて、瞬時に対処できなければならない。
そういった点を考慮しても、マテラッツォ監督は伊藤の持つ総合的な潜在能力に確かなものを感じているようだ。
「スピードがあるし、守備においても優れた対応ができる直感を持っている。スペースを埋めることができ、ビルドアップで正しい決断もできる。いいプレーができる選手だ」