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「理想のアスリートはイチローさん」来季45歳の佐藤琢磨が“インディ500優勝請負人”として衝撃的速度のチームに移籍表明
text by
松本浩明Hiroaki Matsumoto
photograph byHiroaki Matsumoto
posted2021/12/10 17:00
21年シーズンはデトロイトの4位が最高位だった佐藤琢磨。来季初戦は記念すべきインディカー200戦目となる
今年インディ500を制したのはエリオ・カストロネベス、46歳。琢磨より2歳年上のベテランが、インディ500最多タイ記録の4勝目という金字塔を打ち立てた。それを目の前で見せつけられた琢磨に、火が点かないわけがない。3回目のインディ500制覇に向けて、さらにモチベーションが高まったはずだ。
エリオを例にとっても、インディ500はドライバーの年齢に対して寛容だと言えるが、反面で絶対的な経験がものを言うレースでもある。2016年にアレクサンダー・ロッシがデビューイヤーの優勝という例外を除けば、近年の優勝は経験のあるベテランばかり。若手ドライバーの勢いだけでは、500マイルを制することは出来ないのだ。
日本人、いやアジア人として初めてインディ500優勝という偉業を成し遂げた琢磨は、ビクトリーサークルで飲んだ勝利の美酒ならぬ勝利のミルクの禁断の味を知ってしまった。となれば、そのモチベーションが自身の年齢を追い越して、インディ500に駆り立てる勢いにもなろう。
3度目のインディ500勝利を狙う――。琢磨はそう言って憚らないが、10年前、いや5年前の日本のモータースポーツ界から考えると、それは想像も出来ないほど贅沢な目標だ。ましてや日本人でそれを狙えるのは、琢磨ひとりなのだ。
アメリカで戦う男の理想像
かつて琢磨に尊敬するアスリートは誰か聞いたことがある。レジェンドドライバーの名前を挙げると思いきや、意外にもその答えはメジャーリーグのレジェンド、イチローだった。
「アメリカで戦い続けること。その環境でトップで居続ける難しさは、すごく理解出来るし、イチローさんは素晴らしいと思う。残している記録はもちろん、アスリートとしてのその佇まい。ベースボールに対する姿勢。すべてがアメリカに受け入れられている。イチローさんが僕の理想です……」
日本人レースドライバーとして、海外で最も成績を残している琢磨が理想とする偉大なるベースボール・プレイヤー。2022年、琢磨はそのイチローと同じ「51」をカーナンバーに着け、13年目のシリーズを戦う。