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「理想のアスリートはイチローさん」来季45歳の佐藤琢磨が“インディ500優勝請負人”として衝撃的速度のチームに移籍表明
text by
松本浩明Hiroaki Matsumoto
photograph byHiroaki Matsumoto
posted2021/12/10 17:00
21年シーズンはデトロイトの4位が最高位だった佐藤琢磨。来季初戦は記念すべきインディカー200戦目となる
例えば今年引退した横綱白鵬(36歳)やライオンズの松坂大輔(41歳)は、力尽きるまで戦い続け、満身創痍で自ら引退の決断をした。
相撲や野球をレースと同じ尺度で語ることは出来ないが、琢磨がレースを始めた頃から人一倍フィジカルを気にしているのは良く知られている。F1時代もサイクリングをトレーニングに取り入れ、プロのサイクリスト並みの走力を誇っていたし、フィジカルトレーナーのサポートを欠かさなかった。アメリカでもレースウィークの食事のバランスやセッション前後のマッサージなどに気を遣い、疲労を体に蓄積させないよう努めている。
パワーステアリングのないインディカーは、車重が重いこともあってハンドリング、ブレーキング、GフォースとF1と同じかそれ以上の負荷が体にかかっているはずだ。だが、レースを終え汗だくになっていても、琢磨の口から「疲れた」と言うセリフを聞いたことはない。体躯の小さい琢磨だが、いまだに恐るべき力を秘めている。
不完全燃焼の2021年シーズン
ならば琢磨のハートはどうか。「No Attack, No Chance」を信条として走り続けて来た琢磨だが、今年は目立つ成績を残せない厳しいシーズンだった。この逆境に琢磨の心は折れなかったのだろうか?
「もちろん悔しいですよ。こんな厳しいシーズンは久しぶりですよね? ポールもない、表彰台もないシーズンなんて。今年はエンジニアリングやいろんな要素があって、うまくいかなかった。僕だけじゃなくチームメイトも良い成績が残せなかった。でも速く走る自信は失ってないですよ。インディ500だって最後の勝負さえ出来れば、チャンスはあったと思います……」
琢磨は今年のインディ500をチーム戦略のミスで失った。トップ10内で戦いラストスティントで勝負出来たものを、ステイアウトするギャンブルが裏目に出て失敗した。
レース後の琢磨は、ピットボックスで懇々とエンジニアとストラテジストを詰問していた。かつてない珍しいシーンだった。
よほど悔しかったのだろう。勝負をしないでレースに負けた悔しさが、また琢磨のモチベーションを掻き立てたように見えた。それがインディ500の偉大さなのかもしれない。オリンピアンが雪辱を果たせるのは4年後であるように、インディ500で失ったものは、インディ500でしか取り返せないのだ。