猛牛のささやきBACK NUMBER
難病と闘いながら守ってきたショートからセカンド転向…オリックス優勝の“陰の立役者”安達了一(33)が明かした本音とは?
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySankei Shimbun
posted2021/12/10 11:04
難病と闘いながらもショートの座を守り抜いてきたオリックス安達了一。今季は19歳・紅林の台頭もあってセカンドにコンバートされた
安達は2016年1月に、国が指定する難病の潰瘍性大腸炎と診断された。腹痛や下痢などの症状を伴う、安倍晋三元首相も患った病だ。それでも、安達は入院治療を経て復帰。再燃を経験しながらも、徹底した体調、食事の管理でコンディションを整え、遊撃手としてグラウンドに立ち続けた。
昨年は、ナイター翌日のデーゲームなど、週1日か2日の休養日を設けたことで、シーズンを通して高いパフォーマンスを発揮。センターに抜けそうな当たりを軽快な身のこなしで幾度もアウトにするなど、難しいプレーも当たり前のようにこなす職人は、投手や周囲に絶大な安心感を与えた。打撃でも、状況に応じたチーム打撃ができる貴重な存在で、昨年はキャリアハイの打率.289も残し、まだまだやれると存在感を示した。
安達は以前、「ショートを守れなくなったら、引退しようかなと思っている」とショートへのこだわりを語っていたことがある。
その安達がセカンドへコンバート。しかも今季序盤の紅林の守備はまだミスが多く、安達の安定感には遠く及ばなかった。
負けているとは思っていないはず。安達はどんな思いでいるのだろうか。気になって、6月のある日、聞いてみた。
「やっぱりショートは常に出ていないと」
すると、「いや全然、納得はしてます」とサバサバと答えた。
「クレ(紅林)も出てきたんで。そりゃあ若いやつを使ったほうがいいと自分も思いますし。これからのオリックスのためには」
でも現時点で負けているとは思っていませんよね?と聞くと、「でも最近(紅林の守備は)かなりよくなってきているし、あんなに肩も強い。あんな肩、自分にはない。守備位置も深く守って頑張ろうとしているんで、楽しみだなーと思います」と穏やかに答えた。
だが、ショートへのこだわりについて聞くと、思いがあふれた。
「そりゃ、ずーっと出られるんだったらショートでやりたいですよ。病気もなくて。でも、ずっとは出られないから……」
終盤戦になると紅林は見違えるように成長した姿を見せた。優勝争いのさなか、安達はこう語った。
「自分がショートを守らなかったら、たぶんオリックスは強くなると思っていた。だって、やっぱりショートは常に出ていないと。強いチーム、勝っていくチームって、ショートが固定されていると思う。内野の中心ですから。でも自分は、毎試合は出られないじゃないですか」
返す言葉が見つからなかった。
だが安達に悲壮感はなかった。それよりも、優勝争いに身を置いている充実感に満たされていた。
「疲れますけどね、いい疲れというか、やりがいがある。すごく楽しいですね。自分は来年、出られるかどうかわかんないじゃないですか。だからこのチャンスをものにしたい。やっぱり試合に出ている時に優勝したいというのがあるので」
明確な目標があるから、ポジションが変わろうと、チームのために黙々と自らの役割を果たす。