初回にエラーがらみで一死満塁のピンチを迎えるが、そこからギアを上げ23人連続アウト。8回無失点、今季初白星となる圧巻のピッチングだった。792日ぶりの価値ある1勝。東にとって忘れられない勝利になった。

「来季に向けて繋がる勝利だったと思います。今季ここで1勝できるか、できないかはメンタル面の部分でずいぶん変わってくると思います。だから本当に良かった」

　来季への足掛かりをつかんだ東。本人以上に首脳陣は安堵しただろうし、見守っていたファンも「もう東は大丈夫だ」と思ったに違いない。来年の春、今永昇太や大貫晋一らと開幕投手争いをしている東の姿が目に浮かぶ。

　TJ手術後、肘が曲がらず、自分の体ではないような気がした。ボールを投げるまで4カ月の時間が必要であり、本当に戻れるのだろうか、と東は時に悄然としたこともあった。

「あの頃のことを考えると、今の状況を想像することはできませんでした。本当、まわりの方々のサポートに感謝しかないです」

進化を後押しした自身との対話

　幼いころから野球をつづけてきて、これほどの期間、羽を休めることはなかった。体のなかの声に耳を傾けたリハビリという自問自答の日々は、東に一体なにをもたらしたのだろうか。

「振り返ってみれば貴重な時間でした。学生時代は体に対して深く気を使ったりしていなかったんですけど、あらためてこういう状況になって野球以外の面でいろいろと勉強することができました。体の動きに関してや、また食事や睡眠のことなど本をじっくりと読む時間もありましたし、“仕事”として野球というものを考えることができました」

　今年の春季キャンプ前、リハビリをしていた東は「野球選手として“仕事”ができていないことがもどかしい」と苦しい表情で吐露していた。昨年結婚をし、今年子どもが生まれた。家族を支えるためにも、奮起しなければいけない。

「不調時も含めれば、約3年間、プロとして戦えていない。来季こそはフル回転でやっていきたい気持ちはありますし、むしろやらなければいけない。しっかりと責任感のある行動、言動をしていきたいと思います」

　人間的にも成長した東が、来季どんなピッチングをするのか今から楽しみだ。