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ヤクルト関係者「村上は“タメ口”のタイミングが絶妙なんです」高校恩師も語った村上宗隆(21歳)、“上下関係なし”野球部での原点
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2021/12/05 11:01
11月27日、日本シリーズ6戦目に勝利。日本一になり、喜ぶヤクルト村上宗隆(21歳)
39歳の青木宣親や41歳の石川雅規までが涙を流す中で、それでもいちばん泣いていたのは、4年目の4番打者・村上宗隆のように見えた。主将・山田哲人に抱きつくようにして、もう号泣だった。
今シーズンの打席の貫禄がもう「第一人者」みたいだったから、そのギャップに、見ていて、余計もらい泣きしてしまった。
シリーズ5戦目の打ちっぷりが「プロ」だった
シーズン143試合、打率.278、本塁打39本、打点112のセ・リーグ本塁打王。本塁打、打点は自己最高。見事なプロ4年目。
あらためて、すばらしい!と敬意を表したい。
ドラフト1位とはいえ、「全国」は1年夏の甲子園1試合のみ。ほとんど「熊本」しか知らずに郷里(くに)を出てきて、まだわずか4年目。
進学していれば、まだ学生をやってる歳なのに、早くもチームを背負って、押しも押されもせぬ「4番バッター」だ。いや、すでにしてプロ野球界を代表する大打者に君臨したといっても、決して言い過ぎじゃない。
負けた試合だったが、シリーズ第5戦の打ちっぷりに「プロ」を感じた。
同点にされた直後の先頭バッター。
ベンチが、チームメイトが欲しいと思ったのは、チャンスメイクじゃない。試合の流れを一気に取り戻す「長打」だ。
左腕・山崎福也の外角攻めを引っ張らなかった。わずかに中に入った速球を、センター返しのような素直なスイングで左中間スタンドにライナーで持っていった。
その「成功体験」が下地にあったからだろう。次の右中間三塁打も、最後の打席のあわやバックスクリーン弾のセンターフライも、決して引っ張り過ぎず、フラットな打ち方でベストに近い打球につなげていった。
「ウチは上下関係なしのノビノビムードの野球部でして…」
以前、村上の恩師にあたる九州学院高・坂井宏安監督が、こんなことをおっしゃっていた。
「今の村上には、自分で状況を見極めて、どう対処すればいいか、考える力が備わってきているように見える。打ち損じた次の打席は、修正がきっちり出来ているし、上手く打った次の打席は、前の打席の教訓を生かして、あおられることなく、理にかなった打ち方が出来る。もともと、指示待ちはイヤなほうでしたからね。自分で考えて、原点に戻りながら打てているから、大きく崩れることはないんじゃないですかね」
絶対的4番打者として、打線の牽引役を期待されたこの日本シリーズ。
間違いなくあったはずの計り知れないプレッシャーの中で、シリーズ前半はなかなか村上選手本来のスイングが体現できずにいたが、それでも、打ち損じたといえば悔しがり、チームメイトが快打を飛ばしたといえば、自分のことのように喜んでベンチを鼓舞する。そんな姿が、テレビ画面からも見てとれた。
「喜怒哀楽がはっきりしてるっていうのも、高校に入ってきた頃からありましたね」
坂井監督の話は、村上の人となりにまで及んだ。