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格闘技PRESSBACK NUMBER
最強のプロレスラー・桜庭和志はなぜ試合中に微笑んだのか…「格闘技史に残る一枚」のカメラマンが語る“グレイシー狩り”の衝撃
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2021/12/04 17:02
ホイス・グレイシーと死闘を繰り広げながら、なぜか「ニヤリ」と微笑んだ桜庭和志。飄々としてとらえどころのない強者の余裕が漂っていた
伝説のホイス戦、「桜庭のニヤリ」を撮れたワケ
翌年2000年5月1日には、同じくヒクソンの実弟のホイスと対戦。ホイスのセコンドには、実父のエリオと、実兄で長男のホリオンが付いた。ホリオンはUFCの共同創立者であり、ブラジリアン柔術を世界的に広めた人物として知られる。ワンデイトーナメントにも関わらず、時間無制限などのルール変更や無理難題を桜庭はすべて受け入れ、この試合に臨んだ。
この日の両者の入場シーンはPRIDE史上、最高の演出だった。ホイス陣営はいつものように“グレイシートレイン”で入場。選手とセコンド陣、関係者が両手を前の人の肩に乗せて一列になり入場するのだが、その人数は前回の高田延彦戦よりも明らかに多い。
対する桜庭はたった3人だったが、全員が同じマスクを被っていた。プロレス界で一世を風靡したスーパー・ストロング・マシン軍団を真似たものだが、3人ともオープンフィンガーグローブを着用し、身体の同じところにテーピングを巻いていた。テーピングにはレフェリーのチェック済みのサインもあり、細部に至るまで抜かりがない。3人ともマスクを着けたままリングイン。観客の多くはマシン軍団の事を知っているので、この演出は大いに盛り上がったのだが、私は困っていた。なぜなら、桜庭がマスクを外す瞬間を撮影する必要がある。しかし3人とも体型が似ているため、誰が桜庭か分からないのだ。私は桜庭だろうと思われる選手に当たりをつけ、マスクを取る瞬間を狙ったが、予想はものの見事に外れた。
ゴングが鳴り両者一進一退の攻防を繰り返す。得意のアームロックでホイスの右腕を捕らえた瞬間、桜庭はテレビカメラに向かってニヤリと笑顔を見せた。試合中に微笑むなんて普通の選手ではありえないことなのだが、これこそが桜庭の桜庭たる所以なのである。彼は飄々と、自分のペースで戦うことができる実力者なのだ。この試合は90分にわたる死闘となった。最後はホイスが戦意を喪失し、桜庭のTKO勝利。タオルを投げ入れたのは兄のホリオンだった。
ところで、「桜庭のニヤリ」は一瞬のことだったが、私はこの場面を撮ることができた。ただ、この写真に関しては狙いすまして撮ったのではなく、偶然にも私の眼の前で起きたことなので、自然と体が反応しただけのことである。<後編に続く>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。