前田の素早いクイックは、まさにこれだと感じた。自身ではそれを「スーパー」と認めることはなかったが、クイックを含めた投球術を体現できたことには頷いていた。

「打たれてから、（部長の）有友（茂史）先生に『自分のペースで投げてないぞ』って言われて、確かにそうだなって思って。そこから落ち着いて、うまく投げられました」

　チームは9-2のコールドで相手を圧倒し、前田も完投した。7回4安打、2失点、7奪三振。敦賀気比戦とはまた異なる味の「らしい」ピッチングだった。

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　この2試合で、前田の評価は確固たるものとなったし、「スーパー1年生」の称号も完全に定着した。ただし、それらは外野の指標であって、本人の見解は別だ。「まだまだ」「力不足」。そんな反省も目立つ。

「決め切れないところに自分の甘さがあった」

　広陵との決勝戦もそうだ。8回から5番手として登板し、2回3安打、1失点。奪三振は大会で初めてゼロだった。

　大阪桐蔭にとって明治神宮大会初優勝。その歓喜の輪の中心に立った瞬間こそ笑顔を見せていたが、試合後のオンライン取材ではいつもの落ち着き払った前田に戻っていた。

「3試合、投げさせていただいて課題も見つかって。決めるところで決め切れないところに、自分の甘さがあったと思います。変化球でかわすピッチングも時々ありましたし。真っ直ぐあっての変化球なんで、そういうところを冬に見つめ直してレベルアップしたい」

　明治神宮大会では全試合に登板した。15回9安打、17奪三振、5四死球、防御率1.80。これが、前田の初全国の成績である。

「センバツまでにレベルを上げていきたい」

「今はのびのびやって、冬に鍛えていこう」

　監督の西谷から、そう言われ続けた。前田は自分の現在地を確かめるように、マウンドで能力を解放し、左腕をしならせた。

　そして評価を高めたが、納得はしていない。

「秋はのびのびできましたが、まだその段階にいる時点でダメなんで。センバツまでに自分のピッチングレベルを上げていきたいです」

　のびのび投げる期間が終わり、完成度を高める冬を迎える。

　求道者さながらの厳しさでマウンドに立つ、大阪桐蔭の超新星。

　伸びしろは、計り知れない。

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