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《全国デビュー→初優勝》大阪桐蔭の“1年生サウスポー”前田悠伍、その計り知れない“伸びしろ”とは? 敵将「手も足も出ません」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byYuki Suenaga
posted2021/11/26 17:05
大阪桐蔭の“超新星”前田悠伍。この1年生左腕が明治神宮大会で残したインパクトは絶大だった
「まだ1年生ですから、細かいことは言っていません。のびのびと自分の持っている力を出してくれたら。明治神宮大会の舞台でしっかり投げ、いい勉強になればと思っています」
のびのびとは、ややもすれば「がむしゃら」と同義に捉えられがちだが、前田に至っては違う。相手や試合展開に応じ、どれだけピッチングの幅、引き出しから有効な手札を自分で導き出せるか――そんな表現が適している。
怪物1年・佐倉(九州国際大付)に打たれるも…
そういった資質とは大抵、想定外の事態に陥った際に試されるものだ。九州国際大付との準決勝。試合序盤の前田には、敦賀気比戦のような「らしさ」がなかった。
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2回に同じ1年生で注目バッターのひとりである4番・佐倉侠史朗に、高めストレートをライトスタンドに運ばれると、3回にも1番の黒田義信に同じ球種を痛打された。
「調子はいつもとそんなに変わらなかったんで、真っ直ぐでどんどん押しながら変化球を使っていこうと思ったんですけど、真っ直ぐを張られていると感じて。変化球でかわすピッチングになってしまいました」
2本の本塁打を許した直後から変化球を多めの組み立てに切り替え、6回まで相手打線をパーフェクトに抑えた。「しました」ではなく「なってしまいました」と答えたように、自我を抑制して投げた前田の、もうひとつの「のびのび」を見せられたのが7回だった。
満塁時に見せた“スーパークイック”
先頭打者に二塁打を許し、味方のエラーと四球で無死満塁。ピンチで前田は、決め球にチェンジアップを選び三振、併殺打で無失点に抑えた。その要因のひとつにクイックモーションも挙げられる。
これは主に、盗塁をさせないために用いるテクニックだが、ピンチで前田が採用したモーションが異様に早かったのだ。“スーパークイック”と形容してもいいくらいだ。
この言葉を使い、実践するプロ野球選手に楽天の左腕・塩見貴洋がいる。球界指折りのクイックの名手として知られており、彼いわく試合では「通常」「少し早い」「スーパークイック」の3種類を使い分けているという。かつてそのメリットについて、丁寧に説明してくれたことがあった。
「盗塁をさせないためのテクニックなのは間違いないんですけど、それ以外の武器でもあって。スーパークイックで言えば、足が速くて盗塁技術も高い選手に使うことが多いんですけど、ランナーを警戒していると見せかけてバッターのタイミングをずらすこともできたりするんですよね。そこは、試合の状況によって使い分けています」