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日本シリーズ第5戦と同日に『ドーハの悲劇』が…野村克也は「まったく興味なし」、一方の森祇晶がしみじみ語ったこととは?
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2021/11/25 11:03
『ドーハの悲劇』と同日の10月28日に行われた93年の日本シリーズ第5戦。森祇晶と野村克也、両指揮官はサッカーに対してどんなイメージを抱いていたのか
9回裏に荒井幸雄に日本シリーズ通算500号となる今シリーズ第一号が飛び出したものの、焼け石に水だった。
ウイニングボールをつかんだのはファーストの清原だった。試合前同様、勝利の瞬間も笑顔はなかった。彼の視線はその先の先を見据えていた。
7対2─。何とか西武が二勝三敗と土俵際で持ちこたえることに成功した。西武ナインは王者の意地を見せた。これで西武球場に帰れる。
「今日はピッチャーが頑張ってくれました。相手のピッチャーもいいので、なかなか点が取れないですから、ペナントで戦ってきたように繋ぎ、繋ぎで何とか防いでくれました。うちとすれば、5回に点を取られたら苦しくなりますし、あの場面は鹿取が本当によく踏ん張ってくれました。打者も、繋ぎ、繋ぎでやってきて、最後に鈴木健がいいところでとどめを刺してくれました。これで何とか所沢に帰れます」
森の言葉は弾んでいた。
「選手たちもみんな第六戦の切符を持っているようですから、所沢に戻れて、自分の庭で思う存分の野球ができれば最終戦まで行ける。一つ一つがステップだと思います」
森と野村、それぞれの「ドーハの悲劇」
日本シリーズはますます白熱する。前年同様、まれにみる熱戦が展開されている。
しかし、翌日のスポーツ新聞は、後に「ドーハの悲劇」と呼ばれることになるサッカーワールドカップ・アジア最終予選が一面を占めることとなった。この年の5月にJリーグがスタートして以来、日本中に空前のサッカーブームが訪れていた。
この夜、森はサッカー中継を見ていた。一夜明けて報道陣に対して前夜の感想を述べる。
「バスケットボールみたいに残り1分で追いつくスポーツもあるけど、サッカーはいちばん点が入りにくいスポーツ。それが、ああなるんだからなぁ……」
改めて、「勝負は最後の最後までわからない」ということをかみしめていた。
一方の野村もまた、サッカーの話題を口にした。
「まったく興味なし。イライラするわ。駆け引きとか、心理面とか、全然見えんからな。作戦はあるんだろうが、裏をかくことがない。まったく興味なし」
前年に西武が日本一になった翌日の92年10月27日付スポーツ紙の一面はすべて「貴花田・宮沢りえ結婚」の活字が躍る両者の交際発覚報道だった。
二年連続で日本シリーズ最終戦がスポーツ紙の一面から外れることは免れた。日本中にサッカーの興奮の余韻が残る中、戦いの舞台は再び西武球場にやってくる。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。