炎の一筆入魂BACK NUMBER
「カープの伝統を引き継ぎたい」大投手・黒田博樹の魂の後継者、大瀬良大地が事実上の“生涯カープ宣言”
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PHOTO
posted2021/11/22 17:00
同期入団の九里亜蓮とともに残留を表明した大瀬良。今季成績は23試合登板10勝5敗、防御率3.07だった
それでも先発に復帰した17年は、中継ぎの経験から繊細さに大胆さが加わり、投球の幅も広がった。3年連続2桁勝利を挙げ、迎えた20年は名実ともに「広島のエース」と呼ばれるシーズンとするはずだった。
だが、シーズン中盤から明らかに精彩を欠き、9月16日には右肘クリーニング手術を行った。
今季も4月15日に右ふくらはぎ痛で離脱し、急ピッチのリハビリで26日後に実戦復帰。調整登板1試合で一軍に復帰した。出場登録抹消期間、チームは7勝11敗4分け。突貫の復帰ロードを誰よりも望み、貫いたのが大瀬良本人だった。
現実はそんなに甘くはない。
離脱までの3試合で防御率0.89を記録した、上半身をしならせるような投法には軸足の蹴りが重要となるが、右足が完全な状態でなければ球に力が伝わらない。軸となる真っすぐが弱ければ、ほかの球種も生きない。一連の動きの中でバランスが変わったことで、別の場所にも違和感を感じるようになった。
先発未勝利は自己最長となる7試合連続まで伸びた。
まだ登板機会が残る前半戦終盤から、思い切って後半戦を見据えて調整メニューの強度を上げた。五輪休暇前から、シーズンを戦いながら短期的に追い込む調整を取り入れたことで後半戦7勝2敗の好結果につながった。
もがき苦しんだエースの背中
チームの反攻のけん引役を担った後半戦よりも、もがき苦しむ前半戦に大瀬良の生き様が見えた気がする。「しんどいという思いはありましたけど、立場的にそういう姿を見せるわけにはいかない」と吐露するも、後輩たちはその背中を見ていた。
苦しみながらも規定投球回をクリア。クオリティースタート(QS)20度はリーグ2冠の中日柳裕也と並びリーグトップ。QS率87%は同単独トップだった。
まだ、背番号15の背中は遠い。だが今季は、大瀬良の下にチームメートが集まり、助言を求められるようになった。
大瀬良と広島の縁は13年のドラフトに結ばれたのではなく、あの日から幾重に重なり合ってきたように感じる。
今回の契約は、当初2年が基本線だったという。だが、交渉の過程で投手陣における大瀬良の存在意義が認められ、最終的に来季から3年の複数年契約を結んだとみられる。
「できるだけ長くカープで精神的な柱としてやっていってほしいって言葉をいただき、すごくうれしかったです。僕もそういう言葉をかけていただける野球選手になれたのかなって。カープでたくさん学んだこと、カープの伝統、いいところはやっぱりカープの後輩たちに引き継いでいくものだと思いました」
球団が契約年数を上積みしてくれたことよりも、その言葉が大きな決断理由となったに違いない。