箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
全日本“区間12位”でも箱根連覇に欠かせない? 駒澤大“唯一の4年生”、下級生活躍の裏での葛藤と献身「口惜しくなかった4年生はいない」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byAFLO
posted2021/11/09 11:03
“箱根の前哨戦”全日本大学駅伝で優勝した駒澤大唯一の4年生ランナーとして出場した佃康平
出雲駅伝と同じ日に、メンバーから外れた選手たちで競われるタイムトライアル(駒澤の他、創価大や帝京大の選手が参加した)で、佃はその口惜しさをぶつけるようにトップを奪った。気持ちの入った走りは、監督の目にも頼もしく映ったはずだ。
さらに遡れば、箱根駅伝の直後にはこんな口惜しさを味わっている。新たな主将に監督は4年生を選ばず、3年生主将となる田澤を指名した。力は図抜けているとはいえ、後輩に主将の座を譲った最上級生の心境は複雑だっただろう。
「正直、口惜しくなかった4年生はいなかったと思います。でも、監督としては田澤がなってくれた方がチームが良い方向に行くと思ったからの判断だったと思う。そうであれば自分たちはそれを尊重するしかありませんし、田澤をサポートしようと思いました」
後輩の激走を誰よりも喜んだ“箱根に出れなかった”主将
そんな風に気持ちを切り替えられたのは、昨年の4年生たちの献身的な姿を見てきたからだ。
神戸駿介前主将を始めとして、卒業していった代の選手たちには強さとまとまりがあった。箱根には3人の4年生がエントリーされていたが、直前にエントリー変更があり最終的には1人だけに。大八木監督の「力が同じであれば、今年は伸びしろのある下級生を使いたい」という方針に、4年生たちが涙をのんで従ったのだ。チームのために最大限できることをする。その思いと行動は一貫していたと話す。
「寮の規則を変えて、下級生たちと多くコミュニケーションが取れるようにしてくれたのも卒業していった4年生たちです。最後の箱根に走ることができなくて、それは本当に口惜しかったと思うんですけど、だからこそ、自分たちは4年生のためにも優勝しなきゃいけないと思えた。それでチームが一つになれたと思うんです」
だから、と言葉を続ける。
「今年は自分たちがそう思ってもらえるように、後輩たちに4年生を勝たせてあげたいと思われるように、あと2カ月くらいしかないんですけど、箱根までチームをしっかり盛り上げていきたいですね」
前回の箱根で、直前にメンバー変更された一人である神戸は9区の給水係を担った。後輩へのサポートを終えるとすぐに大手町に向かい、フィニッシュ地点で優勝のゴールテープを切る3年生ランナーをジャージ姿で出迎えた。あの時のガッツポーズと笑顔、後輩の激走を誰よりも喜ぶ姿が強く印象に残っている。
寮に戻り、4年生たちが優勝に嬉し涙を流す姿を見て、もらい泣きする後輩たちも多かったそうだ。