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「日常の中で、ふとダービーの記憶が…」エフフォーリア&横山武史は「悔やみ切れないハナ差」をどう乗り越えたのか《天皇賞・秋制覇》
posted2021/11/03 11:01
text by
藤井真俊(東京スポーツ)Masatoshi Fujii
photograph by
Photostud
「ダービーのことはあまり話したくないんです。正直、まだしっかりとはレース映像も見返していないくらいなんで……」
これが、今回のインタビューを申し込んだ時の横山武史の第一声だった。
しかし天皇賞・秋が近づくにつれて、メディアでは自ずと横山武史とエフフォーリアの露出も増えていくはず。その中でダービーの話題を避け続けることはできないのではないか。そんな風に問いかけると、彼は少しずつ重い口を開いてくれた。
「今でも普段の何気ない日常の中で、全く関係のないことをしているのにも関わらず、ふとダービーの記憶が頭をよぎることがあるんです。最後の直線で先頭に立ち、ゴール前でかわされて2着になって……。その時に感じた絶望感までもがよみがえってくるんですよ。競馬番組などで今年のダービーの映像が流れようものなら、すぐにテレビのスイッチを消してしまうくらいです。だから現時点ではとてもレース映像を見て、振り返るなんてことはできないですね。プロなんだから敗戦を受け入れないと……という意見もあるかもしれませんが、自分の中では今も鮮明にあの時の景色や手応えは覚えているので……」
断然の1番人気、騎乗ぶりは冷静だったが…
本人からすると“絶望”だったというダービーの記憶。エフフォーリアにとっては史上8頭目となる無敗のダービー馬の栄誉が、横山武史にとっては史上最年少のダービー制覇という記録がかかる一戦だった。デビューから皐月賞まで4連勝を果たしたコンビは、当日断然の1番人気に推された。そのプレッシャーをものともせず、騎乗ぶりは冷静だった。前半は積極的に好位のインコースのポジションを取りにいき、道中は他馬の仕掛けに惑わされることなく折り合いに専念。直線で進路が出来ると力強く脚を伸ばしてラスト300mで先頭に立つ。残り200m、100mでもトップは譲らなかったが、そこから内を狙って強襲してきたのが伏兵のシャフリヤールだった。ラスト50mからは馬体を並べての熾烈な叩き合い。写真判定の末に、軍配はシャフリヤールに上がった。
このレースを見た各識者の論評からは、横山武史の騎乗ぶりを批判するような声はほとんど耳にしなかった。むしろ健闘を讃える意見の方が多かったように思える。