オリンピックへの道BACK NUMBER
「間違ってなかったな」体操・村上茉愛が《世界体操で優勝して引退》で晴らした“東京五輪唯一の心残り”とは
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2021/10/31 06:02
表彰台の頂点に立った村上は、金メダルを手にすると感情を抑えきれず、涙を流した
しかし、会場で直接その演技を見てもらうことはできなかった。今度こそ、見てもらえる。だから足を痛めていても懸命に調整し、出場種目も平均台とゆかに絞って臨んだ。それが今回の世界選手権だった。
試合を終えて、村上は開幕前の抱負と同じ趣旨を交えつつ、こう振り返った。
「何のために世界選手権に出るか、体操を続けるのかを考えたとき、(オリンピックが)無観客であったことが唯一の心残りでした。たくさんの人に見せたいから頑張ろうと思えました。モチベーションをいただいたり、頑張ってねと言われることがすごく幸せな2カ月でした。声援がなければ続けられませんでした」
パリ、ロスでたくさんメダルを獲らせたい
ピリオドを打った競技人生についての思いもひとしおだった。
「始めた頃は好きで楽しくて、ちょっとずつ成績を残して。高校生のときオリンピックに出たいな、メダルを獲りたいなと思ってから、すごく辛かったです。メダルを目標に掲げるのは簡単かもしれませんが、叶えるのは難しいことだと競技人生後半で実感しました。怪我もたくさんしましたし、成績が上に行ったり下に行ったり、気持ちが乗ってきたり、下がったり。でも、最終的にメダルを獲ることができて、最後のほうで成績を残すことができました。間違ってなかったな、ということを人の言葉で知ることができてよかったです」
選手生活を終えても体操から離れるつもりはない。
「日本の女子も海外で戦えるようになってきて、今日の試合でも成績を残せました。全員が決勝に進めて、『(女子は)無理だろう』と思われたところを覆せたと思います。パリ、ロス(五輪)へ向けて、お手伝いができれば。たくさんメダルを獲らせたいし決勝に残るようにしたいです」
日本女子の明るい未来を思い、広げたいと願う姿は、長年にわたり代表を牽引し、57年ぶりに日本女子体操界にメダルをもたらした第一人者の境地があらわれていた。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。