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松坂大輔「メディアに出る前にみんなに伝えたかった」引退発表30分前に届いたLINE…5人の同級生が見た“スーパースター”の去り際
text by
樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph byJIJI PRESS
posted2021/10/22 11:04
2021年10月19日、引退試合のマウンドに上がった松坂大輔。横浜高同級生は“ヒーロー”の去り際をどう見たのか−−
「世間ってつめてえな! って思いますよね」
ガラケーでLINEが使えない、当時の背番号7・柴武志は夜中のネットニュースで引退報道を知った。「200勝、やってほしかったですね」。プロ10年の松坂の活躍なら、名球会に入れると思っていた。勝てなくなった時、それがいかに難しい記録かを感じた。
「高校時代、ケガなんかしたことなかった丈夫なマツが……。それほどメジャーの環境は過酷だったんでしょうね。それでも食らいついて頑張ってすごい。お金や名誉のためでもないのに。野球への執念を見せてもらった。自分だったらソフトバンクの時点で辞めている」
これまで活躍のニュースにドライだった柴が、松坂のプロ晩年は人が変わったように動向を追いかけるようになった。「世間ってつめてえな! って思いますよね」。感情を露わにし、憤りを交えて言った。仲間思いの一面が見えた。
栄枯盛衰。言葉にするのは簡単だが、栄えたり、衰えたりしながら人生は過ぎていく。40代になると身体や心が衰えを感じ始める。そんな自分に失望する日も少なくない。晩年の松坂も、その葛藤と戦っていたはずだ。そして、松坂の諦めない姿に仲間たちは勇気と活力をもらっていた。そんな日々が終わった。そのことが、やっぱり寂しい。
引退記者会見で松坂は、これからやりたいことを聞かれ「家の庭で野菜を育てたりしたい」と言った。そういう些細なことに幸せを感じたいと思う年齢になったということだろう。逆に言えば、それほどこれまでの人生が激しい戦いの連続だったということでもある。
浦田も、大竹も、柴も、小山も、昨年結婚した常盤も。それぞれが家庭を持っている。子どもにも恵まれ、同級生との話題も野球の話より、子どもの話のほうが多くなってきた。
そういえば柴は、6年前生まれた息子の名前に、大輔の「大」の一文字をもらって付けたという。松坂のように世界に羽ばたく大きな人間になってほしいと願っているそうだ。最近の楽しみは、息子と一緒に公園で野球をすることだと言う。
松坂のLINEにはこうも書いてあった。
「卒業してから、みんなそれぞれの道で頑張っていて、切磋琢磨してきた。そのおかげで俺は頑張ってこれました。野球は終わるけど、終わってからの人生のほうが長い。またここから本当にみんなで頑張っていこうね」
松坂はいつも「みんなで」という言葉を大切にしてきた。31人、またみんなで再会できる日を心待ちにしている。(前編より続く)