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「あの松坂の姿だけは、頭に焼き付いて…」名将・渡辺元智が振り返るボロボロの松坂大輔が見せた“意地”《横浜×PL延長17回の死闘》
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/10/20 11:00
第80回全国高校野球選手権大会、横浜高校のエースとして優勝を果たした松坂大輔
「松坂ががんばっているのに何をやっているんだ」
誰もが予期せぬ大量失点だった。にもかかわらず、渡辺は「うちの打線なら、それなりに点は取れる」と平静だったという。その後は小刻みに点を取り合い、5回表、横浜は4ー4の同点に追いつく。ここからは、がっぷり四つだった。7回裏、PLが5ー4と勝ち越すと、直後の8回表、横浜は再び5ー5の同点とした。一進一退の攻防は、延長戦に突入してからも続いた。
11回表の攻撃に入るとき、渡辺はそこまでノーヒットだった3番・後藤武敏をベンチの奥に呼び、一喝した。10回表、中途半端なスイングで空振り三振に倒れた瞬間、審判の判定にわずかながらも不服そうな表情を見せたことが渡辺の逆鱗に触れたのだ。
「いつもは個人攻撃はしない。でも、あれだけ松坂ががんばっているのに何をやっているんだと。特別扱いをするわけにはいかないので、もちろん松坂の名前は出しませんでしたが『おまえとは縁を切る!』ぐらいのことを言いました。あいつは半分、泣いていましたね。めちゃくちゃ怒りましたから。後藤が疲労骨折で腰を痛めていたことを知ったのは大会後のことです」
鬼の形相で選手を叱咤「何が何でも勝て!」
その激情が乗り移ったのか、横浜は11回表、1死二塁の好機に、6番・柴武志がセンター前ヒットで応える。二塁走者の松坂は懸命にホームをつき、間一髪のタイミングだったがセーフ。松坂はその場にへたり込み、両拳を小さく掲げた。渡辺は語る。
「彼のベースランニングは、ほとんど全力。よくあれだけ走れるな、と。でも、それだけ彼も早く終わらせたいという気持ちがあったんだと思いますよ」
が、その裏。松坂は2死二塁から、5番・大西宏明に同点打を浴びてしまう。松坂は落胆の表情を隠せず、がっくりと肩を落とした。その姿を見た渡辺の中で、何かが弾けた。12回表、攻撃に入る前の円陣で、渡辺は鬼の形相で「何が何でも勝て!」と選手たちを叱咤した。
「選手たちはみんなぎりぎりのところで戦っていたので、どこかで勝っても負けてもいいというような気持ちになりかけていた。でも松坂がボロボロになりながらも投げている姿を見ていたら、こういう戦いだからこそ絶対に勝たなくちゃいかんと思った。普通は墓穴を掘るだけなので、そんな激しい言葉は使わない。でも、このときは肩肘が壊れても、腰が砕けても、すべての苦難を乗り越えて勝利を得よというニュアンスを込めて言いました」