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「あの松坂の姿だけは、頭に焼き付いて…」名将・渡辺元智が振り返るボロボロの松坂大輔が見せた“意地”《横浜×PL延長17回の死闘》
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/10/20 11:00
第80回全国高校野球選手権大会、横浜高校のエースとして優勝を果たした松坂大輔
「不完全燃焼感」は98年夏の後遺症
あの夏から、20年近くが過ぎようとしている。
以降、渡辺は春夏7回ずつ計14回甲子園に出場し、03年春には準優勝、06年には5度目の全国制覇を成し遂げている。通常ならば十分、賞賛に値する戦績だ。しかし、松坂らとともに公式戦44連勝という不滅の金字塔を打ち立てた監督としては、どこか物足りなさが残る。その「不完全燃焼感」の理由を、渡辺は98年夏の後遺症なのだと語る。
「あれ以上の結果は、もうない。そう思ったら勝つことよりも、人間教育に力を入れるようになった。勝つことにガツガツし過ぎていると批判を浴びた反動でもあった。それが今ひとつ甲子園で勝てなくなった原因でしょうね」
今年71歳になる渡辺は、監督を退く際となり、初めて気付いたことがある。
「死にものぐるいでやるからこそ、恐怖が生まれる。教育って何かと考えると、その恐怖に打ち勝つことなんですよ。そのためにもやる以上は、やっぱり全国制覇を目指さなければならないんですね」
高度な技術と知識を身につけた一流の選手同士がただぶつかっただけでは、このような名勝負は誕生しない。渡辺が勝つことに対する執着心を制き出しにし、それによって横浜の選手たちが恐怖心を乗り越えたからこそ、見る者の心を揺さぶったのだ。この試合は、渡辺の闘争本能を表現した一世一代の大作でもある。
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