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「あの松坂の姿だけは、頭に焼き付いて…」名将・渡辺元智が振り返るボロボロの松坂大輔が見せた“意地”《横浜×PL延長17回の死闘》
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/10/20 11:00
第80回全国高校野球選手権大会、横浜高校のエースとして優勝を果たした松坂大輔
16回、再び1点を勝ち越すが…
横浜は13回から15回まで毎回、チャンスをつくりながらも決め手を欠いた。その一方で、尻上がりに調子を上げた松坂はPL打線を12回から15回までパーフェクトに抑え込む。
試合が再び動いたのは、16回表だった。横浜は3安打を集中させ、1死満塁の得点機をつくる。打席には、2番、加藤重之。スクイズも考えられる場面だったが、渡辺は加藤に任せた。
「この試合、私はほとんど動いてません。自分に言い聞かせていたのは、普通に野球をやるんだ、ということ。それだけの練習をしてきた自負がありましたから」
加藤の打球は、高いバウンドのショートゴロに。一塁がアウトになる間に、三塁走者が本塁を駆け抜けた。横浜は再び1点を勝ち越す。渡辺は11回表と同じように「これで終わりだ」と思った。
ところが、その裏、またも一塁手の後藤が足を引っ張った。1死三塁から、3番・本橋伸一郎の打球はショートゴロ。ショートが一塁へ送球した瞬間、三塁走者の日中一徳がスタートを切る。本来、後藤は一塁ベースを離れ、三塁走者を優先的に本塁でアウトにしなければならない。ところが、後藤はベースを踏みながら送球を受けたため、ヘッドスライディングをしてきた本橋に足をすくわれ、本塁への送球が大暴投になってしまう。またしてもスコアボードの「1」の真下に「1」が点灯した。
再試合目前で指揮官が感じた“予感”
渡辺が眉間に皺を寄せる。
「あのときは、はらわたが煮えくり返った。17回に入って、初めて18回で決着がつかなかったら再試合なんだと思った。でも再試合はさすがに松坂は投げさせられませんからね。やはりこの試合で何としてでも決めなければと思い直したんです」
17回表は4番・松坂、5番・小山と続けて倒れ、あっという間に2死になってしまった。続く6番。柴の当たりも何でもないショートゴロだったが、PLのショート・本橋が一塁へ悪送球。思わぬ形で走者を出した。
このとき、渡辺には「ひょっとしたら……」という予感があったという。
「本橋君のリズムがおかしかった。打球に合わせて動けていなかった。内面までは見えませんが、相当なプレッシャーがあったんだと思いますよ」