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「あの松坂の姿だけは、頭に焼き付いて…」名将・渡辺元智が振り返るボロボロの松坂大輔が見せた“意地”《横浜×PL延長17回の死闘》 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byHideki Sugiyama

posted2021/10/20 11:00

「あの松坂の姿だけは、頭に焼き付いて…」名将・渡辺元智が振り返るボロボロの松坂大輔が見せた“意地”《横浜×PL延長17回の死闘》<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

第80回全国高校野球選手権大会、横浜高校のエースとして優勝を果たした松坂大輔

「松坂と心中するというような感傷的な気持ちはなかった」

 終わるはずが、終わらない――。得てして、こんなときは何かが起こる。続く途中出場の7番サード・常盤良太が初球の真ん中高めの直球を叩いた。打球は低い弾道で右中間方向へ伸びていく。渡辺の回想。

「打った瞬間、入ると思った。なので松坂の顔をすぐに見ました。ベンチ前でキャッチボールをしていたんですけど、目がうるんでましたね。彼がこれで勝ったと気を緩めてしまうことが怖かった。ところが安心したことで逆に力みが抜け、17回裏の松坂はさらに腕が振れてましたね」

 松坂は簡単に2つのアウトを稼いだ。そして7番・田中雅彦は、高速スライダーで見逃し三振に切って取る。この日、250球目のボールでもあった。

 その瞬間、渡辺の脳裏を過ぎったのは、1980年夏の優勝シーンだった。早実の1年生エース・荒木大輔を攻略し、横浜は6ー4で最終回を迎えた。マウンドにはエース愛甲猛をリリーフした川戸浩が立っていた。

「あの試合も川戸が三振で締めくくったんですよね……。この試合も川戸のような信頼できる二番手ピッチャーがいれば、どこかで代えていたでしょう。松坂と心中するというような感傷的な気持ちはありませんでしたが、他にいなかった。そのことは松坂もわかっていたと思いますよ」

記録的な2試合も「PL戦の余韻」

 98年夏、横浜は3つの奇跡を起こした。この試合と、準決勝と、決勝である。

 翌21日の準決勝の明徳義塾戦では6点差を8回、9回の2イニングだけで逆転し、劇的なサヨナラ勝ちを収める。22日の決勝では松坂が京都成章をノーヒットノーランに封じ、春夏連覇を完成させた。

 それでも渡辺は、最後の2試合を「PL戦の余韻」と表現する。いずれも記録的な内容だが、渡辺にとってPL戦はそれほどまでに壮絶なゲームだったということだ。

【次ページ】 渡辺が人間教育に力を入れるようになったワケ

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